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一匹と九十九匹と / 福田恆存 - 誰が得するんだよこの書評
「なんぢらのうちたれか、百匹の羊をもたんに、もしその一匹を失はば、九十九匹を野におき、失せたるも... 「なんぢらのうちたれか、百匹の羊をもたんに、もしその一匹を失はば、九十九匹を野におき、失せたるものを見いだすまではたづねざらんや」というのは「ルカによる福音書」の一節であるが、福田はここに文学と政治の役割分担を見る。政治とは万民のためにある。とはいっても、せいぜい正しい九十九匹のために政治というのは行われる。どうしても一匹くらいは全体に迎合しないやつが出てくるし、そういうやつをいちいち相手している暇はない。 かれは政治の意図が「九十九人の正しきもの」のうへにあることを知つてゐたのに相違ない。かれはそこに政治の力を信ずるとともにその限界をも見てゐた。なぜならかれの眼は執拗に「ひとりの罪人」のうへに注がれてゐたからにほかならぬ。九十九匹を救へても、残りの一匹においてその無力を暴露するならば、政治とはいつたいなにものであるか──イエスはさう反問してゐる。 しかし、この政治の限界にこそ、文学の本領
2022/09/26 リンク