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ブックマーク / honz.jp (155)

  • ざっかけない変態料理人の本 『おいしいものでできている』 - HONZ

    昨年、お昼ご飯にレトルトカレーばかりべている時期があった。なかでも「エリックサウス」の南インド風チキンカレーの味が気に入って、二日に一度はべていた。お店には行ったことがないのだが、レトルトで病みつきになった。外出自粛の折、ありがたい限りである。レトルトなんて、という評価はいまどき非常識なのかもしれない。 そのスタンスは書にもある。「ざっかけない(=ざっくばらんな)」という言葉が何度もでてくるのだ。人気店「エリックサウス」の創業者が、ド定番の「おいしいもの」を一品ずつ語っていく。中身は、月見うどん、サンドイッチ、チキンライス、幕の内弁当、小籠包、カツカレー、ホワイトアスパラガス…どれもこれも、身近な料理材たちである。 さすがは自称「変態料理人」。へのこだわりがもの凄い。でもグルメが「おいしいものをべるのが好きというよりはむしろ、おいしくないものをべることが嫌い」な人たちだと

    ざっかけない変態料理人の本 『おいしいものでできている』 - HONZ
    ivory_rene
    ivory_rene 2021/06/09
    “人気店「エリックサウス」の創業者が、ド定番の「おいしいもの」を一品ずつ語っていく本。”
  • 『文芸ピープル』言葉の壁を越える日本文学 - HONZ

    翻訳は面白い。例えば、松田青子の短編集『おばちゃんたちのいるところ』の英訳タイトルWhere The Wild Ladies Areを初めて目にした時、「おばちゃん」が“Wild Lady”と訳されているのに笑ってしまった。ワイルドレディー。ひとたび目にするともう、「ヒョウ柄の服を着たやたら圧の強い年配女性」のイメージしか浮かばない。ちなみにこの作品は昨年、「TIMEが選ぶ10月のおすすめの新刊」に選ばれた。 ここ数年、日の女性作家が英語圏で注目を集めている。 2018年、村田沙耶香の『コンビニ人間』(Convenience Store Woman)がニューヨーカーなど十数誌で「ブック・オブ・ザ・イヤー」に選ばれ、多和田葉子の『献灯使』(The Emissary)が全米図書賞翻訳文学部門を受賞した。 2019年には、小川洋子の『密やかな結晶』(The Memory Police)が全米図

    『文芸ピープル』言葉の壁を越える日本文学 - HONZ
  • "不可能" を追い求めた科学者の冒険 『「第二の不可能」を追え! ― 理論物理学者、ありえない物質を求めてカムチャツカへ』 - HONZ

    “不可能” を追い求めた科学者の冒険 『「第二の不可能」を追え! ― 理論物理学者、ありえない物質を求めてカムチャツカへ』 ラジオ体操じゃあるまいし、不可能に第一とか第二とかあるのか。『「第二の不可能」を追え!』というタイトルを見たら誰しもがそう思うだろう。その違いは冒頭で説明される。第一の不可能とは、けっして1+1が3にならないように、絶対的な不可能のこと。未来永劫、可能になることがありえない不可能である。 それに対して、「第二の不可能」とは、必ずしも正しいとはいえない前提に基づいた不可能のことを指す。言い換えると、それまで不可能と信じ込まれていたものが可能になる可能性がある不可能である。なんだか、可能と不可能が入り乱れた判じものみたいな文章になってしまったが、そのような不可能も確かに存在しそうだ。 書の第Ⅰ部の題は「不可能を可能にする」だ。論理的におかしいような気もするが、「第二の不

    "不可能" を追い求めた科学者の冒険 『「第二の不可能」を追え! ― 理論物理学者、ありえない物質を求めてカムチャツカへ』 - HONZ
  • なんたるガッツ!『明治を生きた男装の女医』がスゴすぎる - HONZ

    高橋瑞(たかはし みず)、嘉永5年(1852年)生まれ。その名を知っている人はどれくらいいるだろう。日で三番目に医師国家資格を取得した女性である。『明治を生きた男装の女医』は、その人生を丹念に綴った伝記小説だ。 24歳にして家出、旅芸人の賄い、女中、短く不幸な結婚の後、産婆に弟子入りする。28歳の時、跡継ぎになれと誘われるが、女医になりたいと固辞する。しかし、女性にはその資格がないことを知り、まず内務省へ直接請願に行く。すごい行動力だ。ちなみに、取り上げた赤ん坊は2万人という。 済世学舎への入学を希望するが、女子学生を受け入れたことがないために難色を示される。粘り勝ちするも、「女医は不可」、「乞」、「行かず後家」などと黒板に書かれるなど、下劣な嫌がらせをうけ続ける。 そんなことはものともせず、無事に修了し、順天堂医院で実習をすませ、34歳にして医師となる。荻野吟子、生沢久野に次ぐ、日

    なんたるガッツ!『明治を生きた男装の女医』がスゴすぎる - HONZ
  • 『京都に女王と呼ばれた作家がいた』男たちはなぜ彼女に魅了されたのか - HONZ

    このの帯は傑作だ。そこにはこう書かれている。 「京都で人が殺されていないところはない」 1200年の歴史を繙けば、戦乱で都が荒廃した時代もあるし、いかにもそこら中で人が死んでいそうだが、これは小説の話だ。 京都に住み、京都を舞台にしたミステリーを書き続けた作家といえば、山村美紗である。22年間の作家生活の中で200冊以上のを出し、売り上げは3200万部を超え、100以上がドラマ化された。派手なドレスに身を包み、名声をほしいままにするその姿は、まさに「ミステリーの女王」の名にふさわしかった。1996年に62歳の若さで亡くなったが、間違いなく一時代を築いたベストセラー作家だった。 だが、キャラが立ち過ぎていたせいか毀誉褒貶も激しかった。 ゴシップのほとんどは雑誌『噂の真相』が発信源だったと記憶する。大手の出版社には「作家タブー」があると言われる。利益をもたらすベストセラー作家を怒らせるの

    『京都に女王と呼ばれた作家がいた』男たちはなぜ彼女に魅了されたのか - HONZ
  • 『コロナの時代の僕ら』コロナ後の我々は、何を守り、何を捨て、どう生きていくべきなのか? - HONZ

    では4月24日発売予定の、イタリアの小説家パオロ・ジョルダーノ*によるエッセイ『コロナの時代の僕ら』の全文が期間限定で公開されていたので、早速、読んでみた。 このエッセイは、イタリアでコロナウイルスの感染が広がり、死者が急激に増えた2月下旬から3月下旬に綴られたものだという。著者は、このの印税収入の一部を、医療研究と感染者の治療に従事する人々に寄付することを表明しているそうである。 人間は過去を忘れることによって生きている。5千万人から8千万人の命を奪ったと言われる第二世界大戦の記憶でさえも、年月の経過とともに風化していき、今やほとんどの人にとっては忘却の彼方である。 だから、「まさかの事態」はまだ始まったばかりなのだが、もしも我々が記憶に留めようと努めなければ、すべてが終わった時、今回のコロナウィルスのことも簡単に忘れ去られてしまうだろう。でも、そうすることによって、我々は当に以

    『コロナの時代の僕ら』コロナ後の我々は、何を守り、何を捨て、どう生きていくべきなのか? - HONZ
  • 舞妓さんの秘密――『花街と舞妓・芸妓の世界』 - HONZ

    作者:溝縁 ひろし,松田 有紀子,田中 圭子 , 山 真紗子, 片山 詩音 出版社:誠文堂新光社 発売日:2020-02-13 舞妓さん? 京都で歩いているのを見たことがあるかな。そう、多くの人にとっては、観光の景色のひとつか、映画の世界だろう。そこになんと、リアルな舞妓さんの世界を京都5ヶ所、東京7カ所、ほか全国各地を含め合計25カ所の花街で追究し、写真満載で紹介する豪華が登場だ! 掲載された写真は、ざっと数えて630点は優にある(地図と図版を入れるともう少し増える)。しかも、大方はプロのカメラマンの手によるもので、美しい。しかもこの溝縁ひろしさんは、花街を撮り続けて45年だという。やっぱり美しい花は綺麗な写真で見たいもの。 元は、文科省の助成を受けて科研費で花街を研究した成果だそうで、その後、著者4人(執筆者は他にも5人おり、計9人)が興味を持って全国各地を調べていった結果をまとめ

    舞妓さんの秘密――『花街と舞妓・芸妓の世界』 - HONZ
  • 『戦争は女の顔をしていない 1』女たちの独ソ戦の記憶、決死の覚悟で求めたものとは - HONZ

    作者:小梅 けいと、原著:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 出版社:KADOKAWA 発売日:2020-01-27 発売直後から、私のSNSのタイムラインには「あの名作がついに」「まさかのコミック化」と、賛辞のコメントが相次いだ。独ソ戦という、日ではあまり知られることのなかった出来事が、なぜこんなに多くの人の心を動かすのか? 思わず手に取らずにはいられなかった一冊だ。 原作は、2015年にノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチのデビュー作である。独ソ戦に従軍した500人以上の女性に、気の遠くなるような時間をかけて話を聞き回り、戦争の記憶を一冊にまとめた。ともに語り合い、ともに沈黙し、ともに泣きながらつづられたインタビュー集だが、彼女の祖国ベラルーシでは、長らく出版禁止とされてきた。 舞台となった独ソ戦は、第2次世界大戦と呼ばれる複合的な戦争の中でも、あまりに特殊な位

    『戦争は女の顔をしていない 1』女たちの独ソ戦の記憶、決死の覚悟で求めたものとは - HONZ
  • ドミニク・チェンって何者だ? 『未来をつくる言葉:わかりあえなさをつなぐために』 - HONZ

    この、HONZの、そして新潮社の編集者でもある足立真穂から送られてきた。ドミニク・チェン、最近、ときどき目にする名前だが予備知識はまったくない。「ドミニク・チェンって何者なん?」とメッセージを送ったら、「それを聞かれるので書いてもらった一冊です」と返事が来た。さすが敏腕編集者、あざといことを言う。 そして読んだ。ドミニク・チェンが何者かがわかったかと尋ねられると、返事に窮してしまう。もちろん、その経歴や仕事、考えなどについてはある程度知ることができた。しかし、当にわかったかといわれると、そうとは答えにくい。 コミュニケーションとは、わかりあうためのものではなく、わかりあえなさを互いに受け止め、それでもなお共に在ることを受け容れるための技法である。「完全なる翻訳」などというものが不可能であると同じように、わたしたちは互いに完全にわかりあうことできない。それでも、わかりあえなさをつなぐこと

    ドミニク・チェンって何者だ? 『未来をつくる言葉:わかりあえなさをつなぐために』 - HONZ
  • 新型コロナウィルスだけじゃない、伝染病のノンフィクションを読んでみよう! - HONZ

    このの発売時に、まさか世の中がパンデミックの恐怖にさらされているとは、製作者は誰も思ってなかっただろう。しかし、感染症の歴史のアウトラインを知りたいという人にはぴったり。かなり重いので持ち運びはできないけど。 以前、「ミステリマガジン」の医療小説特集の折、感染症のノンフィクション一覧を書かせてもらいました。10年ほど前ですが、いま読み直してみても、歴史的に価値のある作品ばかりです。絶版になっているものが多いのですが、興味のある方は探してみてください。 日は海に囲まれて、いわば離れ小島のような存在だから、かつて歴史上で世界的な流行をした伝染病も、外からの災いであるという受け止め方をしていた。毎年騒がれている鳥インフルエンザにしても、今回の新型インフルエンザにしても、あるいはエイズ、ペスト、コレラもそうであった。 しかし、ヨーロッパはそうはいかない。中央アジア奥地にしてもアフリカにしても、

    新型コロナウィルスだけじゃない、伝染病のノンフィクションを読んでみよう! - HONZ
  • 皆ひとしく、その時に向かっている 『エンド・オブ・ライフ』 - HONZ

    何もない土曜日。我が家で最初に「行ってきます」を言ったのは、84歳の母だった。朝8時、迎えに来たデイサービスの車に車椅子のまま乗り込んでいった。そしてさっき、「お年玉でオモチャを買いたい」という息子と「友達の誕生日プレゼントを買いたい」という娘を連れて、が出ていった。そして、私は一人リビングに残された。 早速、昨日泣きながら読んだ書『エンド・オブ・ライフ』の素晴らしさを多くの人に伝えようと、パソコンを立ち上げた。当然だが、原稿というのはいずれ書き終える時がくる。そういうものだ。今回は、その最後の一文をどんな気持ちで書き終えるだろう。笑顔と拍手で終えられるだろうか。それは、今をどう生きるか(どう書くか)、にかかっている。 そう考えると、今この瞬間の中にも、生と死があることに気づく。このは終末医療を扱ったノンフィクションだが、私が書を全ての人にお薦めしたい理由はそこにある。ここに書かれ

    皆ひとしく、その時に向かっている 『エンド・オブ・ライフ』 - HONZ
  • 『最期の言葉の村へ──消滅危機言語タヤップを話す人々との30年』 言語とともに消え去っていくものたち - HONZ

    タヤップ語。それは、パプアニューギニアの熱帯雨林の奥深くにある小さな村で話されている言語である。そして、その言語はいままさにこの世界から消え去ろうとしている。 「言語はなぜ消滅してしまうのか」。1980年代、当時大学院生だった書の著者は、その謎を明らかにしたいと切望し、単身で熱帯雨林の奥地に潜り込む。当時、どんな地図にも載っておらず、そこを訪れた白人もほとんどいなかった、湿地の村ガプン。その村では、非常に古い歴史を有した言語が、ごくわずかな村人たちによって話されていた。書は、その言語と村人たちの行く末を30年にわたって追跡した研究書であり、ルポルタージュである。 先に明かしてしまうと、書のおもしろさは次の2点にある。まずひとつは、言語研究の来的な務めとして、ひとつの言語の消滅過程をしっかり記録していること。そしてもうひとつは、奥地での仰天話あり、九死に一生のエピソードありで、全体と

    『最期の言葉の村へ──消滅危機言語タヤップを話す人々との30年』 言語とともに消え去っていくものたち - HONZ
  • 『評伝 石牟礼道子 渚に立つひと』 - HONZ

    伝記は文芸の分野の一つである。 一人の人物の生涯と事績を書くものだから、対象はそれに値する人でなくてはならない。 リットン・ストレイチーというイギリスの文人に『ヴィクトリア朝のエミネントな人々』という列伝の名著がある。取り上げられているのはマニング枢機卿、フローレンス・ナイチンゲール、教育家のトーマス・アーノルド、ゴードン将軍。 ここでぼくはエミネント(eminent 「高名な、卓越した、抜きん出た」)と原語で書いたが、邦訳では『ヴィクトリア朝偉人伝』とされる。そう、偉人なのだ。この四人について詳細に語る余裕はないから一人に絞るとしよう。ゴードン将軍はイギリスの植民地を守るのに功績のあった軍人で、中国で太平天国の乱の平定に力を尽くし、その後アフリカに転じてスーダンのマフディーの乱で戦死した。あくまでもヴィクトリア朝的な基準による偉人。 ここではストレイチーの例を挙げたが、イギリス人は格別に

    『評伝 石牟礼道子 渚に立つひと』 - HONZ
  • 時系列に沿った「因果の物語」が通じなくなった世の中で生まれた新しい哲学『時間とテクノロジー』 - HONZ

    たとえばあなたが会社員で、「あなたはなぜその部署で働いているのか」と質問されたとしよう。自分で志望した、先輩に推薦された、いきなり指名された、など様々な理由があると思う。そしてあなたは今、その理由を過去に遡り、上司や同僚との会話、これまでの人事移動、そして大学で勉強していた頃の風景を思い返しているかもしれない。 今の自分を鑑みる時、過去を振り返る。過去が今の自分を築いてきたと、無意識のうちに信じている。書ではその無意識な感覚に問いかける。当に過去の出来事が今の自分につながっているのか。自分だけではなく、周りの人々や社会情勢まで視野を広げてみる。この、”世界を時系列・因果関係の中で捉える感覚”は、この先どこまで通用するのだろうか。 書によると、科学の進歩によって私たちの時間の感覚が変わってきている。たとえば音楽について、iTunesなどのネット配信サービスのおかげでその場ですぐに音楽

    時系列に沿った「因果の物語」が通じなくなった世の中で生まれた新しい哲学『時間とテクノロジー』 - HONZ
  • 『今、評価され続けているアジアのアート』現代美術の動向 - HONZ

    現代アーティストとして世界中で活躍する草間彌生のコラージュ作品は30年前、原画が約15万円であった。それが現在では、版画作品で1000万円の値段がつくものもある。 資産として考えた場合、平山郁夫など巨匠の作品を購入するよりも単価が安かった彼女の作品を当時に大量購入しておけば、その利益率で莫大な富を得られたであろう。 ただ、これは結果論である。当時こうした結果になることを予測できた人はいなかった。アーティストである作家人を除いて。 書は戦後から現代に至るまでのアジアのアートの動向について、経済を踏まえて俯瞰できる一冊だ。3部構成となっており、第1部は評論家や美術館長らが藤田嗣治、上前智祐、小松美羽といった作家と作品について論じている。 対談や鼎談で構成する第2部は、日・香港・台湾に画廊を持つホワイトストーンギャラリーの白石幸生会長が立ち上げた「アジアコンテンポラリーアート投資ファンド」

    『今、評価され続けているアジアのアート』現代美術の動向 - HONZ
  • 『古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。』難問と相対する白熱の全記録 - HONZ

    今年1月14日、ツイッターである話題がトレンドを席巻した。「#古典は当に必要なのか」というハッシュタグに連なる論争である。震源は明星大学人文学部日文学科が主催した同名シンポジウムだ。 この催しの趣旨は以下のとおりだ。2015年の文系学部廃止報道以降、日の古典文学研究・教育は縮小の一途をたどっている。この危機に対して、古典(書では主に古文・漢文を指す)の価値を訴える書物や討論は少なからず世に出てきたが、これらは守る側だけの論理で完結してしまっていたように思われる。つまり、否定論・不要論と正面から向き合ってこなかったのではないか。 そこで、肯定論者だけでなく否定論者もまじえて真剣に意見を交わすことによって初めて見えてくるものがあるはず。書は、インターネットでも中継されたこの公開討論会の紙上再現に、終了後の会場アンケート結果、SNSでの反響、後日談としての総括を加えた白熱の全記録である

    『古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。』難問と相対する白熱の全記録 - HONZ
  • 『ミヤザキワールド 宮崎駿の闇と光』 - HONZ

    書は、海外における日アニメ研究の第一人者による「宮崎駿論」決定版とも言うべき一冊である(原書はMiyazakiworld: A Life in Art, Yale University Press, 2018)。通読してまず実感するのは、著者スーザン・ネイピアの「ミヤザキワールド」に対する並々ならぬ愛情の深さだ。自身も優れたストーリーテラーであるネイピアの語り口は優しく滑らかで、宮崎の人生や時代背景が創作過程にどのような影響を与えたのかを、難解な専門用語に頼ることなく紐解いていく。ネイピアは、宮崎の作品世界を読み解くために、監督に関する膨大な日語の(そして日に日にボリュームを増す英語の)文献や資料を渉猟しただけでなく、作品にインスピレーションを与えた自然や場所にも自ら足を運んで観察している。 現在、タフツ大学で修辞学教授を務めるネイピアは、これまで日文学とファンタジーやアニメに関す

    『ミヤザキワールド 宮崎駿の闇と光』 - HONZ
  • 『AI以後 変貌するテクノロジーの危機と希望』AIが突きつける「人間とは何か?」という根源的な問い - HONZ

    書は、NHKドキュメンタリー『人間ってナンだ?超AI入門』の特別編として、『世界の知性が語るパラダイム転換』というタイトルで放送された、マックス・テグマーク(宇宙物理学)、ウェンデル・ウォラック(倫理学)、ダニエル・デネット(哲学)、ケヴィン・ケリー(編集学)という4人の世界的知性のインタビューを一冊にまとめたものである。 我々は今、AI人工知能)の登場によって、「人間とは何か?」という難問を突きつけられている。日では、「AIが人間の仕事を奪うのか?」という問題ばかりが取り上げられるが、AIが人間に近づけば近づくほど、人間を凌駕すればするほど、これまで我々が人間の根幹をなすと信じてきたものが見直しを迫られ、「人間とは何か?」という古くて新しい哲学的な問題がクローズアップされてくる。 そして、その根幹にあるのは、「心とは何か?」「意識とは何か?」という根源的な問いである。 書の最初に

    『AI以後 変貌するテクノロジーの危機と希望』AIが突きつける「人間とは何か?」という根源的な問い - HONZ
  • 『ガール・コード プログラミングで世界を変えた女子高生二人のほんとうのお話』ギークな女子高校生2人の痛快サクセスストーリー - HONZ

    『ガール・コード プログラミングで世界を変えた女子高生二人のほんとうのお話』ギークな女子高校生2人の痛快サクセスストーリー ある日を境に急に有名人になってしまうなんて経験、そうそうないだろう。だがソフィーとアンディの人生にはそのめったにないことが起きた。書は、しなやかな発想で世界を驚かせた女子高校生2人の成長物語である。 ソフィー・ハウザーは、授業中に手を挙げて発表することにもおびえるほどの極度のあがり症だ。気楽に自分を表現できる場は日記か親友の前だけ。そんな彼女は、スタートアップ企業で働く兄の影響でプログラミングに興味を抱く。 一方、アンドレア(アンディ)・ゴンザレスは、お金に苦労した両親が子どもたちの教育に力を入れた影響で、幼いころから優等生だった。だがその一方でプレッシャーも感じていた。両親は医者か弁護士、エンジニアを目指せと言う。その中でアンディがなりたいのはエンジニアだった。

    『ガール・コード プログラミングで世界を変えた女子高生二人のほんとうのお話』ギークな女子高校生2人の痛快サクセスストーリー - HONZ
  • 『お砂糖とスパイスと爆発的な何か 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』私にもあった女性差別の驚き - HONZ

    第161回の直木賞候補作は全員女性であった。賞創設84年の歴史で初のことだと話題になったが文学の世界で性差を論じることは陳腐なことだと私は感じていた。 『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』は一般向けフェミニズム評論だ。著者の北村紗衣の専門はシェイクスピアのフェミニスト批評。東京大学で学士、修士を、キングズ・カレッジ・ロンドンで博士号を取得している。 北村は年に百映画映画館で観て、百くらい舞台も劇場で観る。そのうえ260冊くらいも読むという。仕事の上とはいえこれだけのものを観たり聞いたり読んだりするのは楽しくなくては続けられない。その楽しむ方法が「批評」であると語る。 「面白かった」だけでなくそこから一歩踏み込むのが批評。それを読んだことで作品や作者に対し、もっと興味を持ってもらうのが批評の仕事。良いことだけでなく、悪いこともきちんと分析して観劇した人や読者に伝える使命がある。書で

    『お砂糖とスパイスと爆発的な何か 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』私にもあった女性差別の驚き - HONZ