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  • 10 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    テレビ局の三階、Aスタッフルームと書かれた白い扉を開けると、新プロデューサーは独り中央のデスクに座ってタブレット端末を操作していた。窓の締め切られた十六畳程度の室内は、見た目の清潔さに比して少々埃臭い。占い師は露骨に顔を歪め洟を啜ったが、すぐに表情を戻し軽く会釈した。 「先日はどうも」 「占い師の円筒将門先生、だっけか」机から頭を上げ、渕崎はてらてら光る頭部を二、三度撫でやった。「事件について質問があるとか」 胡乱な眼差しは前回と変わりないが、憔悴の色濃い顔貌に反抗の意思は見られない。肩書は増えたのに、以前の尊大さはすっかり鳴りを潜めていた。 その理由も、ここで明らかになるのだろうか。格的な初仕事に壱八は逸る気持ちを抑えきれず、将門の横で焦れたように両拳を握ったり開いたりしている。 「渕崎さん、プロデューサーへの昇進、まずはおめでとうございます。あ、南さんにつきましてはご愁傷さまでした。

    10 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/11/24
  • 9 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    最初の面会相手は、前にも会ったスキンヘッドのチーフディレクター渕崎柾騎だった。 円筒将門に異能力を明かした夜から、数えて三日後。面会場所は、極東テレビ局内のスタッフ専用控え室。二日前には南枳実の葬儀が行われたそうだが、一夜明け、渕崎は喪中も何も関係なく、相変わらず番組の企画制作に奔走しているという。 制作部長を筆頭に昨日開かれたプロダクション上層部の緊急会議で、渕崎は正式にプロデューサー兼任チーフディレクターへ昇格した。完全に故人の穴埋めだ。むろん〈ガダラ・マダラ〉のプロデュースも今後は彼の指揮に委ねられる。意地悪な見方をすれば、プロデューサーの死が渕崎の昇進を早めたことになる。 とはいえ、番組放映に関しては収録の目処すら立っていないのが偽りなき実情だった。プロデューサーの訃報は瞬く間に世間に知れ渡り、民間からも番組打ち切りを望む声が続々と挙がっていた。ネットニュースによると、某局にてラジ

    9 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/11/23
  • 8 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    「冗談はさて置き、君の場合は目覚めていない能力もあるんですよね。クレアヴォイアンスとプレコグニションですか」 「何だそれ」 「フランス語で透視、千里眼を意味するのがクレアヴォイアンス。プレコグニションは予知能力を示す英語です。プレが事前、コグニションが認識」 「ああ、どっちもからっきしだった」 「使えるのはサイコキネシスとテレパシーの一種」 「やっと信じてくれるようになったか」 「まだ条件つき留保の段階ですが。元々わちきは、異能力なんて実在しようがしまいがどうでもいいスタンスですからねえ」 壱八の証言を頭から馬鹿にしていた将門が、今はもう妄想という言葉を口にしなくなっていた。それだけでも壱八にとっては大きな前進だった。 そろそろ、あの提案を切り出してもいいタイミングか。壱八はテーブル表面に映った逆さの占い師に視点を定め、一段と声を潜めて、 「なあ将門。一つ、俺に考えがあるんだが」 ははあと

    8 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/11/19
  • IrfanView でぼかし・モザイク処理をする

    画像閲覧ソフト IrfanView を使ったぼかし・モザイク処理。 対象 : Windows 10/8.1/7、IrfanView 4.42 IrfanView ぼかし・モザイク処理 まず、IrfanView 日語化 に書いた悠綺氏の日語化メニューを前提に説明する。 一応英語のメニュー名も併記する。 IrfanView のぼかし(Blur)やモザイク(Pixelize)処理は、メニューの[画像(image)]→[フィルター(Effects)]にて行える。 ぼかしの量などを変えたい場合は、[フィルターの設定(Effects browser)]で Effect を選び、スライダーで効果量を決める。 私がよく使うぼかしは Blur 2 で、作業手順は以下の通り。 ぼかしを入れたい箇所をマウスで範囲選択する。 [Ctrl + E]でフィルター設定画面を表示して Blur 2 を選び、スライダー

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    karatte 2022/11/17
  • 7 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    「仕方ない。どうしても信じないなら、次の手段に出るまでだ」 「まだあるんですか。今度はわちきの体でも持ち上げてくれるんでしょうか。そのままベッドに連れていってくれるとありがたいんですけどね」 色めかすように科を作った占い師は、もちろん君も一緒にね、と付け加えるのを忘れなかった。 「そりゃ無理だ。重量オーバーだ」 「失礼ですね」 不服そうに鼻を鳴らす将門を冷たく見やり、壱八は電子タバコを指し示すと、 「それだと大きすぎるな。手の中に隠せるサイズのものはないか? コインとか」 「どちらの手にコインがあるのか当てるつもりですか」 さすが天下の占い師。呑み込みが早い。 「そういうこと。何回試してもいいぞ。全部言い当ててやる」 「透視はできないって、さっき言ってませんでしたっけ」将門は大仰に身震いして、「ひょっとして、わちきの服をずっと透視してたとか。おお怖い怖い」 「手じゃなくて、お前の心を透視す

    7 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/11/15
  • 6 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    「君、よっぽどですね」 電子タバコを不味そうに口から離すと、それまで黙って話に聞き入っていた占い師は、話し手以上に深刻な面持ちを浮かべた。 「よっぽどって、何が」 「よっぽど悪かったのですね」 「だから何がだよ」 「頭の打ち所が」 「だから言ってるだろ。打ち所悪かったから、こんな能力が身についたんだって」 「想像が逞しいのは悪いことじゃないですよ、でも人に妄想を押しつけるのは感心しませんね」 狭苦しい店舗の裏側に、こんなに広い部屋があるのかと眼を疑うほど、すっきり拓けたリビング空間がある。床の滑りさえ良ければ、小規模な舞踏会くらいは開催できそうなリビング内部の瀟洒なテーブルに、壱八は淡紅のドレス風ワンピースを羽織った円筒将門と向かい合っていた。 今、壱八が肘を突いている方形のテーブルは、流曲線の浮き彫りが縁と脚部に施されたマホガニー製のもので、似た造りのテーブルが室内にあと三つもあった。艶

    6 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/11/12
  • 5 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    その夜。 重い足取りでアパートに帰宅した壱八は、六畳間に入るなり、背面跳びのような動作で勢いよく蒲団に仰臥した。眼を閉じ、室内の湿気った空気を肺の限界まで吸い込む。起き上がる気力もない。不安のほうが的中した。最後の実験結果は、壱八の期待を大きく裏切った。 その奇妙な実験は、独自の評価で選び出した、気軽に声をかけやすい市井の人らを対象に行われた。コンビニの店員や駅員など、接客業に携わる人々が大半を占めた。 「なんてこった……」 自分は他人の心理が読める。 他の人間の考えていることが、どういう理由でか心の中に浮かんでくるのだ。条件次第で。そう結論づけるしかなかった。 加えて、実験を重ねることで、他人の心を読む上での、一定の法則のようなものまで判明した。別段知りたいとも思わないが、判った以上は心に留め置くしかないだろう。 できないこと。 遠方にいる人間の心を読むこと。視界の範囲内にいる人間、それ

    5 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/11/10
  • 4 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    身に起きた異変は、思った以上に深刻なのかもしれない。忙しなく人の行き交う夕刻の街並に身を置き、壱八は嫌というほどその認識を強くした。 まずは霊能者筧要も得意とし、異能の定番ともいえる透視能力を、道すがら実験することから始まった。 路上に捨て置かれた新聞や雑誌の種類を、手翳しだけで言い当てる。買い物客のぶら下げているエコバッグを、外側から見て取る。能の赴くまま、道行く女性の洋服の内側を透かし見ようと努めたりもした。 これは徒労に終わった。一般的に透視、千里眼と呼ばれる能力に関しては、身についていなかった。物の陰に隠れたものは、どうやっても視界には映らず、額の傷にも不審な動きは感じられなかった。壱八はほんの少し安心した。透視の幻覚もしくは妄想の前兆は皆無だった。 引き続き、これも異能の代表格である予知能力の実験に着手した。駅近くのデパートに隣接したファーストフード店は二階部分に出入り扉があり

    4 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/11/09
  • 3 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    三日前の面会が、随分と昔のことのようだ。実際には、面会から変わり果てた姿の南枳実を眼にするまで、二日そこそこしか経っていない。 昨日途中で切り上げたフードデリバリー業務のことを考えながら、壱八はごろりと俯せに向きを変えた。打ち身の痣は未だ消えず、腕や脚の関節も時折軋るような音を立てた。自転車に乗る程度なら問題ないが、決して小さいとは言えないバッグを背負って荷物に気を配りつつ配達を続けるのは難儀だ。 早めに別の仕事でも探しておくか。なるべくハードワークでないものを。 淡い期待を抱きつつ、頬を畳に擦りつけたまま、左腕を炬燵テーブルの天板に預けた。そのままスマホのある辺りに手の先を彷徨わせる。届かない。全然見えないが、スマホはもっと奥か。腕は限界まで伸ばしている。体を横にずらさないと無理そうだ。 いや、その努力を払うくらいなら、最初から上体を起こしている。今更そうするのはなんだか負けた気がして腹

    3 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/11/08
  • 2 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    夜通し行われた取り調べが終わり、帰宅を許されたのが午前二時。パトカーで送ってもらうという貴重な体験こそしたものの、総じてろくな目に遭わなかった。それがこの一夜の率直な感想だ。 念のため病院で診てもらうよう警官に言われたが、当分その忠告に従うつもりはない。四肢の負傷はどれも打ち身程度のもので、頭の傷も実際鏡に映してみると、額の皮膚が二、三センチ切れた程度にしか見えない。 問題は別にあった。犯人らしき人物に階下へ突き落とされてから、壱八は体の調子がいつもと違うことに、少しずつ気づき始めていた。身体の節々が痛むのは仕方がない。おかしいのは、むしろ強かに打ちつけた頭のほうにあった。 昨夜の体験を思い起こしながら、尻を引きずり蒲団を離れ、テレビの前へ移動する。 最初におやと思ったのは、アパートに帰宅直後、重い瞼と疼く肘を擦りつつ、何気なくテレビのスイッチをつけたときだった。 もう見飽きたバックライト

    2 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/11/07
  • 1 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    完全なる光の欠如。見えるのはただただ黒いだけの虚無。距離感のない、平板な全き夜の世界。これでは何も見えないのと変わりがない。 光に覆われた世界は見る者の眼を焼き焦がすが、一面の暗黒空間は眼に優しすぎるが故に、却って人の心を不安にさせる。何を見ているのか何が見えていないのか、そんな判断さえつかない、何もない闇の中。 何もないはずの暗闇に、暗黒色の平たい板が浮かんでいるのが見えるのは何故だろうか。あらゆる輪郭の失われた、盲いた空間の中にあって、確かにそれは自らの存在を主張し、現実に空間の一部を占領していた。稀薄な暗闇を一点に凝縮させた真の闇が、周囲の虚空を切り離してますます自らの優位を誇示するかのような有様が、依然として闇だけの世界に現前と展開されていた。 この世界には黒しか存在せず、黒でないものは存在できないのだろう。暗黒空間の無を従えて立ち現れた黒い平面。質は違えど、それらは遍く紛うことな

    1 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/11/05
  • 3 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    警察に疑われているのが、だから彼女には悔しくてならなかった。出世頭を二人も殺し、なおかつ十条教授の腹にナイフを埋め込むような狂気の沙汰を、どうしてプロデューサーたる自分が演じねばならないのか。 酷な言い方をするなら、たとえ己が手で三人殺したとしても、心に描いていた理想が現実に実を結ぶとは到底思えない。あまりにリスクが大きすぎる。そうまでしてスリリングな話題を提供したところで、当の手駒たちが使えないのだから、次回からの収録に活かすのは不可能だ。元も子もない。 いや、それだけではない。最近の飛駆と空の態度もそうだ。平等主義というわけでもないが、プロデューサーの募る苛立ちは、残る生者たちにも向けられる。 一般公募者ではなくチーフディレクターの推挙という異例の抜擢により、まだ十代の初々しい二人、大賀飛駆と春霧空を同コーナーのレギュラーに選出した。しかし、プロデューサーの眼は決して芸能人としての資質

    3 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/11/02
  • 2 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    固定電話の親機に眼をやると、留守録機能に三件メッセージが届いていた。再生ボタンを押す。内容はどれも数秒程度の無言電話で、発信者番号はやはり非通知設定だった。 典型的な不在チェック。空き巣に入る際の常套手段だ。自分ではまだ気づいていないだけで、やはり何か盗まれているのかもしれない。 取り敢えず占い師が来るのを待とう。普段着に着替える気にもなれず、彼女は見つかった定期を握り締めたまま、両脚のストッキングだけを脱ぎ捨て、もう一つのロッキングチェアに頽れた。リビングでは履いて歩くのが習慣になっていた入り口のスリッパさえ、今や心の埒外にあった。心地好い揺れを全身に感じながらも、憤の溜まった胸の内はどうにも伸びやかにならない。 プロデューサーとしての宿業か、何者かに部屋を荒らされた非常時なのに、椅子に身を落ち着けていると、図らずも思考は担当する番組へ向かっていく。彼女自身が企画し、手塩にかけて育て上

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    karatte 2022/11/01
  • 1 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    相手が電話を切る音が聞こえた後も、彼女はしばらくスマホから眼を離すことができなかった。空いたほうの手に握られた裸のIC定期券が、相も変わらず小刻みに震えていた。 業界に名を馳せる敏腕プロデューサーは、今や明らかに怯えていた。疲労の溜まった吐息と共にようやく手帳型のスマホケースを閉じた。 その日は朝から良くないことが続いた。来月初頭、極東テレビ内で放映される生放送バラエティのプロデュースを担当している彼女は、気難しい出演者らとの顔合わせを午前中に控え、充分な時間的余裕を持ってマンションを後にした。 何の段差もない平坦なところで躓き、久しぶりに履いたハイヒールの踵が片方折れた。一番のお気に入りだった。 仕方なくナンバー・ツーのハイヒールに履き替え、駅に向かった。改札の前でバッグに手を入れ、いつも同じ場所に入れているIC定期券が、今日に限ってどこにもないことに気づいた。地面に落とした? でも、そ

    1 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/10/28
  • 20 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    エレベーター扉は固く閉ざされていた。階数表示は一階のままだ。もう管理人室に辿り着いた頃か。 体を捻り、脇の通用口に眼をやる。ドアもないその先は、一階で見かけたのと同じ造りの階段スペース。下り階段の踊り場をぼんやり見下ろしながら、壱八は再び考えた。 抜き取られた心の棘の傷痕が、いやに大きい。割と重要な何かを忘れている気がした。踊り場の壁に据えられた黄色い電球の天蓋を眺めているうち、壱八は占い師が言い残した最後の言葉をふと思い出した。 と同時に、その言葉の真意を今頃になってやっと理解した。タクシー内にて将門の語った制作者犯人説が長らく耳に残っていたせいで、犯人イコール番組制作者イコール南枳実という図式が、思ったより強い磁力で脆弱な思考を縛りつけていたのだ。 ここから絶対に離れないで。 将門がそう言ったのも道理だ。あの絶叫がプロデューサーの放ったものなら、それは彼女が被害者であるからに他ならない

    20 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/10/27
  • 19 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    エレベーターを出てすぐ正面に見える部屋が四〇一号室。扉横の表札に〈南〉とある。左手側は小窓のついた壁しかない。外廊下は右側にだけ延び、各部屋が正面続きに十ほども並んでいる。その終いの部屋の前にも、エレベーター横のものと同じ造りのコンクリート階段が見えた。廊下全体を照らす蛍光灯の列が、眩いくらいに白々と明るい。 「さて、今日こそは天下のプロデューサー大先生に、何もかも打ち明けてもらいましょう」 「タクシー代も自前だしな」 「君は一銭も払ってないでしょうに」 ドアの前で胸を張り、将門は表札下のインターホンを拳骨で殴るように押し叩いた。あまりに乱暴な押し方に、お前は朱良か、と言いかけたのとほぼ同時に、部屋の中から甲高い絶叫が洩れ聞こえた。 「……何だ」 壱八は要領を得ない顔で相変わらず扉に眼をくれていたが、余韻も残さず悲鳴が静寂の中に掻き消えると、将門は獲物を襲う猛獣さながらドアに飛びついた。

    19 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/10/26
  • 18 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    「気になるのは、あの収録のどの部分にまで制作者の意図が及んでいたかです」 「どの部分にまでって、まさかお前」 それはつまり、塞の神の毒殺さえ企画の一端だったかもしれないというのか? 「いや、まさか」 「付け加えておきますけど、〈ガダラ・マダラ〉の企画制作は、ほぼほぼプロデューサーの独壇場だったとか。特番収録中の企画変更発言を事前に知っていたのも、塞の神人を除けばプロデューサーとチーフディレクターの渕崎だけだったそうですよ。警察情報がソースなので、一定の信憑性はあります」 将門の言葉によって、制作者側という漠然とした括りの内奥が明らかになった。番組制作を牛耳るのは南枳実プロデューサーで、そこに渕崎柾騎チーフディレクターが絡んでくる。他のディレクターや末端のスタッフには、企画の変更も予め報されることはない。 「独裁か」 「専制のほうが近いですね。独裁って形式上は民主政治に分類されるんですよ。

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    karatte 2022/10/24
  • 17 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    黒カーテンの後ろで、電話のベル音が弱々しく鳴った。 「誰ですかね」 呟いて静かに立ち上がり、奥に姿を消す将門。 澱んだ香気の立ち込める、微妙に明るくそれ以上にどんよりと暗い室内は、さながら積した壱八の、心奥の顕現に等しかった。そんな狭い一室に独りスポットライトに照らし出され、音のない世界に黙然と耳を傾ける。 やがて荒々しい音を立てて部屋に戻ってきた将門の、尋常ならざる雰囲気と興奮した顔つき。 「どうした」 「出ましょう、壱八君」客人のグラスを一息に飲み干し、将門は口早に告げた。「タクシーも手配しました。今からプロデューサーの家に行きますよ」 壱八の思考は一瞬にして夥しい疑問符の洪水に呑み込まれた。 「何? 今から? どういうことだよ」 「さっきの電話、あれ、南プロデューサー。事件のことで伝えたいことがあるから、すぐ来てくれですって」 電話番号を載せた名刺が、ここに来てようやく役に立ったよ

    17 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/10/20
  • 16 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    「休憩中の飲み物は、プロデューサー南枳実が言っていたように、スタジオ後方のスタッフブースに用意されていました。休憩に入る直前には、ボトルからそれぞれのグラスに注ぎ終わった状態だったそうです。収録再開寸前に舞台セットに運ばれたわけですから、全員分に毒を混入させるチャンスは、結局休憩中にしかなかったことになります。それと、元々烏龍茶が入っていたボトルからは、毒は検出されなかったそうです。なので再開後に新しく補充された教授のお茶にも、当然毒は見つかりませんでした」 「とにかく、犯人が三人全員に毒を飲ませようとしたのは確かなんだな」 「ですね。あと、毒の混入が収録の休憩中だった点についても、疑いの余地はなくなりました。休憩前に出されたお茶に毒はなかったそうなので」 そこで将門は手帳を覗き見て、口調を変えずに続けた。 「十条教授に関する新情報もあります。殺害された後、邸宅の書斎を調べた捜査官の報告に

    16 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/10/18
  • 15 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム

    ファミレスでの聞き込みから二日を経た、火曜日の夕刻。デリバリースタッフ業務の最中にあった壱八は、届け物を済ませて道路脇でスマホ片手に次の案件を待っていたところ、占い師からの電話連絡を受けた。 もう次の聞き込み相手が掴まったのかと驚き交じりに尋ねると、 「だといいんですが、〈ガダラ・マダラ〉の司会者先生、事件後も随分ご多忙らしくて、なかなか面会の約束を取りつけるには至らずでして。筧と塞の神の所属していた芸能プロにも交渉しましたが、そちらもさっぱり。やっぱり不意討ち作戦しかないんですかね。それより壱八君、今日はお仕事ですか」 「ああ」 「そうですか、ならちょうど良かった。今からお店に来てください」 どこがちょうどいいんだと詰ったものの、相手は平然と、自転車で来れるじゃないですか、と言ってのけた。 「わちきの優秀な情報収集ネットワークが、事件に関する面白い情報をキャッチしたんです。君も知りたいで

    15 - 異能探偵(空っ手) - カクヨム
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    karatte 2022/10/17