ガヤトリ・スピヴァクの「ある学問の死:地球志向の比較文学へ」が翻訳されたのは2004年のことだ。ここで「死」を宣告されているのはもちろん比較文学で、旧来型の比較文学はもうやることがなくなって死んでいるから、今後は「社会正義」のために文学研究はあるべきだと述べている。当時、山形浩生がこれにアマゾンレビューで一点をつけて、比較文学なんてとっくに死んでいる、と罵倒していたのは、そのような方向性に反対だからで、のちにプラックローズらの『社会正義は常に正しい』を訳して、社会正義のために人文学を用いることを批判した山形らしい。 学問というのは、自然科学がそうであるように、客観的な事実を提示するものであって、政治的に正しい議論を導くものではない。だが、文学研究というのは、基本的な作業が終って、もうあまりやることは残っていない。それに対して、今後の文学研究は社会正義のためにあるべきだと言う人たちが、ポスト