わたしの結婚はねえ、と彼女は言った。失敗だったわよ。なくてもよかったものだったのよ。仕事だってそう。わたしはちょっと美容院をやって景気のいいときに土地を転がしただけよ。かれはかれにしかできない仕事をしたから、わたしよりはましね、でもたいして変わらない。 彼女はそのように言う。そのように言う人がもしも中年以下であれば、私は返答を検討せざるを得ないし、どうかすると不快に感じたかもしれない。けれども彼女は七十で、ひどく陽気で安定していて、だから私は、そうですかと軽く頷くことができるのだった。どのような反応をしても、それが正直なものであれば、彼女が気を悪くすることはない。隠蔽と追唱を彼女は憎み、その気配を敏感に嗅ぎつける。 彼女は背筋の伸びた、顔の小さい元バレーボール選手で、染めていない髪をいつ会っても同じ軽くカールしたショートカットに整え、三十歳年下の私と同じだけの食事をぺろりと平らげる。容赦な