辞書並みの上下巻1600頁余から浮上してきたときの、正直な気分。読了までちょうど1ヶ月かかったけれど、この小説世界でずっと暮らしていきたい。死ぬべき人は死んでゆくが、残った人も収束しない。エピソードもガジェットも伏線もドンデンも散らかり放題のび放題(でも!)いくらでもどこまででも転がってゆく広がってゆく破天荒さよ。 ストーリーラインをなぞる無茶はしない。舞台は1900年前後の全世界(北極と南極と地中を含む)。探検と鉄道と搾取と西部と重力と弾圧と復讐と労働組合と無政府主義と飛行船と光学兵器とテロリズムとエロとラヴとラヴクラフトばりの恐怖とエーテルとテスラとシャンバラとデ・ニーロがぴったりの悪党と砂の中のノーチラス号と明日に向かって撃てとブレードランナーと未来世紀ブラジルとデューン・砂の惑星とiPhoneみたいな最終兵器とリーマン予想とどうみてもストライクウィッチーズな少女たち(でもありえない
前作『メイスン&ディクスン』の刊行から九年後になる2006年に発表された。原題は“Against the Day”。「the Day」には、聖書の「裁きの日」の意味が付随する。それが、何故「逆光」という邦題になるかと言えば、dayをday(light)の意味に取る用法があるからだと訳者あとがきにある。たしかに、光と闇の対立という主題は作品の中で何度も言及されている。興味深いことに、通常主人公は光の側に位置するものだが、この作品では光は戦争の最終兵器の扱いを受け、ヒーローたちは、常に森の奥深くや夜の闇、或いは地下深くで活躍する。まさに、光に逆らっているのだ。 前作でもそうであったが、ピンチョンは歴史的できごとを物語の中に組み入れることを愉快に感じるタイプらしい。本作でもマヨネーズその他歴史の中に初登場する事象を巧みに配置し、読者を飽きさせない。では、その時代とは、1893年から第一次世界大戦
ピンチョンの意地悪な新作 Thomas Pynchon, Against the Day (Penguin, 2007) (『一冊の本』2007 年 9 月号 pp.26-7) 山形浩生 要約: 十九世紀末のシカゴ万博ではじまり、ウェスタン小説とアナキストの価値薬と、四元数とニコラテスラと、中央アジアのシャンバラ探索とリーマン・ゼータ仮説と飛行船少年冒険物語とツングースカ大爆発とをからめた得体の知れない収拾のつかない変な話。細部の深読みに喜びを見いだす人は大いに楽しめるだろうが、結局何だったんだ、という小説ではあって、読むヤツいるのか、という感じ。実は読者にイジワルしようとしてピンチョンが書いてるだけじゃないかとも思うのだが。 トマス・ピンチョンの新作が出たのはしばらく前のことなのだが……いったいこれをどうまとめていいものやら。もともと謎の作家として評価の高いピンチョンの各種小説は、そのほ
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