戸籍には、役人(戸籍係)による、楷書ですらない筆跡も残っており、はなはだしくは毛筆の先から墨が垂れて「・」(丶)が加わってこの字体となったという話も複数聞く。届け人の個性がにじみ出たものもある。1枚の戸籍でも、同一人物が欄によって、あるいは親子の間で、名字の字体が異なるというものさえも生じた。よく語られる字体へのこだわりには、後付けのものがけっこう多い。明治初期に起こったこうした些細なできごとは、一般に記録も残されず、伝承もされなかったようだ。そこにも画数が運勢を動かす特別な力を発揮するという大正期から広まった信仰が関わり始めている。 官報にも、その神経質ともいえる区別が再現されている。 前回扱ったワタナベ姓は、そもそも何件あるのだろうか。そういう実態を知りたいと願う様々な人々が名簿や電話帳などを駆使して推計を出している。人生を費やした男性もいたという。そうした成果によれば、ワタナベ氏は日