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ブックマーク / www.ele-king.net (38)

  • ♯8:松岡正剛さん | ele-king

    たとえば林檎を描くとする。赤い林檎をそのまま正面から描くか、ひと口かじったそれを描くか、あるいは緑の林檎にするか、それとも半分に割った林檎にするか、その描き方にはいろいろある。編集者というのは、「(ほかの描き方も複数あるが)今回はこの林檎でいこう」だ。35年前に松岡さんから聞かされたこの喩えが、いまでも頭にこびり付いている。流動性のなかにこそ編集の極意あり。存在の流動化、存在から存在学へ、ほうき星の存在学。編集者は、言うなれば仮面から仮面へ、惑星から惑星へ、そして灰から灰へと渡り歩くことができる。だが、真を追求するアカデミアの研究者はそうはいかない。だからこの発想には両義性がある。 編集者のテクニックのひとつに、コピーライティングがある。松岡さんは権威的な文体や難読漢字の多用を嫌い、メディアの武器であり資主義の道具でもあるこの文章技術に入れ込んでいた。目次に凝るのが好きで、ときには雑誌の

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  • Kamasi Washington | ele-king

    1960年代のジョン・コルトレーン、1970年代のファラオ・サンダースと、ジャズ・サックスの巨星たちの系譜を受け継ぐカマシ・ワシントン。もはや21世紀の最重要サックス奏者へと上り詰めた感のあるカマシは、2015年の『The Epic』で我々の前に鮮烈な印象を残し、2018年の『Heaven and Earth』で今後も朽ちることのない金字塔を打ち立てた。しかし、『Heaven and Earth』以降はしばらく作品が止まってしまう。もちろん音楽活動はおこなっていて、2020年にミシェル・オバマのドキュメンタリー映画『Becoming』のサントラを担当し、ロバート・グラスパー、テラス・マーティン、ナインス・ワンダーと組んだプロジェクトのディナー・パーティーで2枚のアルバムを作り、2021年にはメタリカのカヴァー・プロジェクトであるメタリカ・ブラックリストに参加して “My Friend of

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  • 高橋幸宏 音楽の歴史 | ele-king

    高橋幸宏は1952年6月6日、東京で生まれた。父は会社経営をしており、自宅は200坪の敷地に建ち(もともとは天皇の運転手が建てた家だそうだ)、軽井沢には別荘を持っていた。 後に音楽プロデューサーとなる兄に感化され、早くから音楽に親しみ、小学生のときにはドラムを始めている。このドラムという楽器を選んだ理由にはドラムの練習ができるほど広い家に住む子がなかなかいないからだったと後年明かしている。 中学生のときにはユーミンが参加することもあったバンドを組み、高校生のときにはもうセッション・ミュージシャンの仕事を始めていたのだから早熟と言うほかないだろう。ドラムのうまい高校生がいるという噂を聞きつけて大学生だった細野晴臣が会いに来たのも高橋幸宏の高校時代のこと。大学に入るとガロに一時在籍するなど、すでにプロのミュージシャンとしての道も歩き始めていた。 そんな高橋幸宏の転機となったのは、旧知の加藤和彦

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  • R.I.P. Yukihiro Takahashi | ele-king

    高橋幸宏が亡くなった。今はただただ悲しい。寂しい。もちろん私はいちファン、いちリスナーでしかない。氏と交流のあった方の悲しみは、もっともっと深いだろう。坂龍一のあのグレーのツイートのように。 しかしわれわれファンも皆、深い喪失感に襲われているはずだ。あの高橋幸宏がこの世から旅立った。これから高橋幸宏のいない世界なのだ。悲しくてやりきれない。なぜだろう。答えは簡単だ。ある意味、高橋幸宏こそテクノポップだった。もちろんYMOは3人揃ってこそYMOだが、テクノポップとしてのYMOを象徴したのは高橋幸宏だったのではないかと私は思うのだ。彼のドラムはYMOの脈動だし、彼のヴォーカルはYMOのトレードマークだったし、彼のスタイリングはYMOの美意識だった。 脈動。トレードマーク。美意識。ここから導きだされることは簡単だ。憧れだ。端的にいおう。皆、あなたのようになりたかった(でも誰もなれない。当たり前

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  • R.I.P. Pelé | ele-king

    ペレは、世界初のサッカーにおけるスーパースターだったが、マラドーナと同じく、いちサッカー選手以上の存在だった。モハメッド・アリやマイケル・ジョーダンなどと並べて語られるように、スポーツをもって頂点に上り詰めた黒人でもあった。影響力の大きさから、その無邪気な言動は、ときに政治的にも解釈された。だいたい、戦争を止めることができたスポーツ選手などほかにいたのだろうか。60年代末、内戦状態だったナイジェリアとビアフラはペレのプレイを見るために休戦したのである。 ペレの全盛期は、1958年のスウェーデン大会から1970年のメキシコ大会までの間だと言われている。彼はブラジル代表としてW杯で三度、クラブ・チーム「サントス」の一員として二度の世界王者に輝き、23年間の選手生活において世界80カ国でおよそ計1300試合以上の試合に出場し、公式としてはいまのところ最高の1300近いゴールを記録している。ぼくが

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  • black midi | ele-king

    聞いてくれ! といがらっぽい声でのたもうたのち、作中人物になりかわったジョーディ・グリープは月光のもと愛の甘いささきがながれ、オートバイが柔らかいエンジン音をたて、風土病がはびこり、緑のテーブルに土産物がのった赤い部屋のある歓楽街への上力をみとめ、戦争のなんたるかをのべる――ファースト・シングル“Welcome To Hell”のいささか、というかまいどながらシュルレアリスティックな舞台設定に伏在し、サウンドに共鳴し合うものが前作から1年というみじかいスパンでのリリースとなるブラック・ミディの3作目『Hellfire』の構えをさだめている。“Hellfire=地獄の業火”の表題はそこであたかも禍々しい阿鼻叫喚をくりひろげるようでいて、グリープはおそらく種々のハードコアやエクストリーム・ミュージックがむかいがちなリニアな志向性とは似て非なる多義的な含意をタイトルにこめている。むろん圧力は低く

    black midi | ele-king
  • Kaytranada | ele-king

    いまもっとも旬のプロデューサーと言っていいだろう。ケイトラナダことルイ・ケヴィン・セレスティンが初のアルバムをリリースした。ハイチ生まれで生後間もなくカナダのモントリオールに移り住んだ彼は、現在まだ23歳の若者だ。J・ディラ、マッドリブ、ア・トライブ・コールド・クエストなどの影響を受け、14歳でDJを、15歳で楽曲制作を始め、最初はケイタラダムス名義(シカゴのトラップ・プロデューサーのフラストダムスに憧れて命名している)で作品発表を行っていた。その頃はアンオフィシャルなリミックスものやミックス・テープが中心で、ヒップホップやトラップ、ビート・ミュージック系の作品が多かった。2013年からケイトラナダに名前を変えるのだが、その前後に手掛けたジャネット・ジャクソン、エリカ・バドゥ、ティードラ・モーゼスらのリミックスが話題を集める。姉の影響で幼少の頃からR&Bに慣れ親しんできた彼は、こうしたリミ

    Kaytranada | ele-king
  • Nubya Garcia | ele-king

    昨今異常な盛り上がりを見せるUKのジャズ・シーンにおいて、ユセフ・カマールやジョー・アーモン・ジョーンズらと並び日でも人気を集めるアーティスト、ヌバイア・ガルシアのニューアルバム『Source』がリリースされた。僕が最初に彼女の存在を知ったのは2017年に〈Jazz Re:freshed〉から出た『Nubya's 5ive』(アルバムの中の “Red Sun” を初めて聴いたときはジョン・コルトレーンの楽曲かと勘違いしてシャザムしたのをいまでも覚えている……)。そこから約3年間の飛躍を考えると驚くべき成長速度である。UKジャズの決定版とも言えるコンピレーション『We Out Here』(9曲中5曲に参加するという異例の抜擢)や女性メンバー主体の7人編成のアフロビート・バンド「ネリヤ」、そして盟友ジョー・アーモン・ジョーンズのソロ・アルバムにも参加するなど、活動は多岐に渡り、まさに駆け抜け

    Nubya Garcia | ele-king
  • Aya | ele-king

    むむむ、これはひょっとしたら新章のはじまりかもしれない。とはいえ、その萌芽は1980年代のレーガン政権下にまで遡る。ダナ・ハラウェイという学者は現実社会がリアルであると同時に政治的なフィクションでもあるように、「女性の経験」もまたファクトでもありフィクションでもあるという意味において政治的に意義深く、そして彼女はフェミニズムを論ずるうえで、機械(サイバネティクス)と生物(オーガニズム)のハイブリッドである“サイボーグ”というタームをメタファーに使った。それからおよそ35年後の今日、女性自らが描くマシナリーかつオーガニックなヴィジョンは、じっさいのところもう何も珍しくなくなっている。 そこでマンチェスターのアヤ・シンクレア(※それまでLOFT名義で活動)による鮮烈なデビュー・アルバム『Im Hole』だが、まさにこれこそサイボーグのためのサイボーグによる音楽などとついつい喩えたくなってしまう

    Aya | ele-king
    AKIYOSHI
    AKIYOSHI 2021/11/04
  • Little Simz | ele-king

    2019年に発表した前作『GREY Area』が非常に高く評価された Little Simz。Stormzy や Headie One とも肩を並べるUK屈指のラッパーとなった彼女の最新作『Sometimes I Might Be Introvert』は、歌詞とサウンド両面で、自身のルーツと向き合いながら、同時に現在の自分をも表現した作品となった。 彼女の名は Simbiatu Ajikawo。フッドの仲間は「SIMBI」と呼ぶ。タイトルを和訳すると「たまに内向的になるの」。作は、ラッパーとして成功した「Simz」と素の「SIMBI」というキャラクターとパーソナリティの乖離と融和を描いている。ちなみにタイトル(『Sometimes I Might Be Introvert』)の頭文字を取ると「SIMBI」になる。 サウンド面をサポートするのは幼なじみの Inflo こと Dean Jo

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  • Billie Eilish | ele-king

    いまや世界一注目されるスーパー・ポップ・スターであるビリー・アイリッシュが繰り広げてきたダークなファンタジーは彼女がベッドルームで作り上げたものだということはよく言われるが、そこで自分が気になるのは、そのベッドルームが実家にあったということだ。いやもちろん、ティーンとしては一般的なことだろう。ここで言いたいのは、アイリッシュの歌──自傷や死の夢想、パラノイア──が家族に守られてきたことである。 たとえばいまどきのアメリカのメジャーなアニメ映画などを観ていると、ジェンダーや人種のダイヴァーシティの意識が現代的に更新されていても、すごく古風に「家族」という価値観が守られているように感じられることが多い。ソニー制作で Netflix で配信されている『ミッチェル家とマシンの反乱』ではソーシャル・メディアに支配された現代を批評しつつ、クィアのキャラクターを自然に登場させ、強い父親がひとりで一家を守

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  • Daichi Yamamoto | ele-king

  • interview with Hiatus Kaiyote (Paul Bender) | ele-king

    「誰もが大きな試練を乗り越えてきた。これを作り上げるために、僕らは泥の中を突っ走ってきたような気がする。そしてこの勇敢(valiant)で誇らかな感覚が、嵐の中から穏やかな海に流れ出した。サウンドの響きと感情の奥行きに誇りを感じる。この辛い毎日に、人々にちょっとした安らぎを届けることができたらと思う」 ──ポール・ベンダー(アルバム・インフォメーションより) ハイエイタス・カイヨーテが6年ぶりにアルバムを引っさげて帰ってきた。あのパンク・ロックっぽいアートワークでネオ・ソウルなヴァイブスを奏でる前作『Choose Your Weapon』はギャップも含めかなりのインパクトがあったし、ジャズやソウル、ロックやポップスなどの絶妙なバランスを縫ったサウンドとヴォーカルのネイ・パームが放つ独特の雰囲気と歌が、ジャンルの垣根を超えた日のオーディエンスにもバッチリ支持されている証拠だろう。 新作『M

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  • interview with Black Midi | ele-king

    ブラック・ミディの存在は、2018年からロンドンより漏れ伝わってきていたものの、情報は少ないし、レコードも聴けないし、彼らを知るすべといえば、おもにルー・スミス(Lou Smith)が撮影したウィンドミルでのライヴ映像だった。そして、2019年、2つのシングル(アルバムには収録されていないけれど、ラフ・トレードからのファースト・シングル「Crow’s Perch」にはほんとうに興奮した)とデビュー・アルバム『Schlagenheim』で、彼らはじぶんたちがどんなバンドなのかを、ようやくはっきりと示した。聴き手の前にぬっと現れた、奇妙でいびつなかたちをしたその音楽は、まるでキング・クリムゾンが1969年が1984年までの間にリリースしたレコードをぎゅっとひとまとめに固形化したような、あるいはジョン・ゾーンが指揮を執ってポップ・グループとシェラックがいちどきに演奏しているような、とにかく強烈な

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  • Menagerie | ele-king

  • Holly Herndon | ele-king

    コンピュータ技術などの進歩によって、2045年ごろには、技術的特異点が生じ、これまでとはまったく異なる世界がやってくるらしいが、この技術的特異点=シンギュラリティは、はたしておとずれるのか。 シンギュラリティとは、制御できないほどに加速していくテクノロジーと、その結果引き起こされる重要な変化に対して人間が対処できなくなる、その加速化の到達点のことをさして言う。これは主にAIの進歩に関してたびたび耳にする言葉であって、AIが用いられている音楽においても同様の意味で用いられるだろう。 テクノロジー/人間性、ソフトウェア、エレクトロニクス/身体性のような対立項は音楽において切っても切り離せないものであり続けた。実際、1955年〜56年のシュトックハウゼンの〝少年の歌”は、歌われた音響と電子的に制作された音響の統一をはかるというテーマのもとに作曲されたものであった。もちろんテクノロジーはどんどん進

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  • Kelly Lee Owens | ele-king

  • Lafawndah | ele-king

    いつも少し遅い。だがそれゆえいつも質が高く、ポイントは外さない。それが〈Warp〉というレーベルの性格である。 昨年リリースされたフューチャー・ブラウンのアルバムからも聴き取ることができたように、近年のベース・ミュージックは、従来ならワールド・ミュージックという言葉で呼称されたであろう領域から様々な要素を貪欲に摂取し、どんどんその境界線を書き換えていっている。あるいは南アフリカのシャンガーン・エレクトロやリスボンのゲットー・サウンドがそうであるように、いまやワールド・ミュージックそれ自体がベース・ミュージックという文脈の中で生き直しを図っているのかもしれない。 ともあれ、そのようにベース・ミュージックとワールド・ミュージックとが混淆していく様を数年遅れで少しずつパッケージしてきた〈Warp〉が、ここにまたひとり新たな才能を送り出した。 ラファウンダことヤスミン・デュボワはパリで生まれ育ち、

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  • Kaitlyn Aurelia Smith | ele-king

    これは電子音楽で鳴らされる21世紀のフォークロア・ミュージックではないか。このアルバムには、シンセサイザーによる幻想的なトラディショナルなムードが横溢している。見知らぬ地のコドモたちの祝祭の音楽のようでもあるし、16世紀の画家、ヒエロニムス・ボスの絵画のようでもある。 米国はワシントンの北西部にあるオーカス島出身の電子音楽家ケイトリン・オーレリア・スミスの最新作『ザ・キッド』は、これまでどおり「ブックラ100」(Buchla)などのヴィンデージ・シンセサイザーを駆使したサウンドでありながら、その音楽性はさらに色彩豊かに変貌をとげている。 2016年にリリースされた前作『イヤーズ』(『EARS』)もエクスペリメンタル・ミュージック/電子音楽の領域で高い評価を獲得したが、作はそれをもこえる完成度といえよう。マーク・プリチャード(Mark Pritchard)のリミックスやアニマル・コレクティ

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  • Lafawndah | ele-king

    最初はうーんと唸ってしまった。どうにもスピリチュアルすぎるというか、ニューエイジ的なものに寄りすぎなのではないかと。ギャング・ギャング・ダンスが引き合いに出されるのも頷けるところがあって、これは彼らの最新作をベース・ミュージックに移殖した音楽ですと、そう単純化してしまってもあながち見当ちがいだとは言いきれない。ただ、何度も聴き直しているうちにその印象はどんどん変わっていった。これは、一筋縄ではいかない音楽である。 ラファウンダことヤスミン・デュボワの略歴についてはこちらを参照していただくとして、その後ローレル・ヘイローやDJスポコとのコラボなんかもあったわけだけれど、やはり昨年、高田みどりと共作したことが大きな転機となったのではないだろうか。当初その組み合わせにはずいぶん驚かされたが、それはたぶんこっちが勝手に片方を「ワールド・ミュージック/ベース・ミュージック」という枠組みに、そしてもう

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