一般的に企業の寿命は30年とされているから、パラレルキャリアという言葉に注目が集まるのも無理はないだろう。しかし最も重要なのは、キャリアを2つ作ることではなく、どのように持続可能な状態を築けるかという点にある。 大阪の新世界において、下駄屋を営む澤野由明氏。彼は創業100年を超える老舗「さわの履物店」を経営する人物だ。この下駄屋の店主がなぜかジャズ・レーベルを始め、今や世界中に多くのファンを持っているという。本書『澤野工房物語』はこの澤野氏のビジネス群像を描きながら、格好のジャズ入門書としての側面を持ち、さらには多くのビジネスマンの生き方指南書にもなりうる1冊だ。 好きを貫くために必要なこと 下駄とジャズ、この一見無関係に思える2つのキャリアが、交わりそうで交わらない。まず最初に注目したいのが、澤野氏にとって一番好きなジャズを、メインの仕事ではなくサブに位置付けたことだ。サブであったからこ