人はいかにしてイスラム教徒になるのか 「スズキ、おまえはイスラム教徒だったよな」 これは、1996年7月のある日、西アフリカ、コート・ジヴォワールのアビジャンで私に問いかけられた言葉である。 相手は、現在私の妻となっている女性の親族。彼女への結婚の申し込みにおける一幕である。さて、私は何と答えるのであろう――。 私は文化人類学者。専門はアフリカ音楽。 文化人類学者は長期間のフィールドワークをおこない、現地の人々と生活をともにしながら、自分自身で一時資料を収集してゆく。 博士課程の学生であった私は、前回のFIFAワールドカップで日本人にもお馴染みになったコート・ジヴォワールの大都市アビジャンに1989年から住み込み、当地のストリート文化と音楽について研究していた。 経済的事情から、家庭の事情から、小中学校を中退してゆく少年たち。彼らはストリートを舞台として、靴磨きやバスの客引きなどの経済活動