ハヤシ・キクさんは原子力について特に考えがあるわけではなかった。そのため自宅近くの、東北地方の海岸に建つ原子力発電所は最大の地震にも耐えられますよと東京電力から聞かされた時も、それを疑う理由は思い浮かばなかった。 高齢の農家の妻であるハヤシさんはいま、福島第一原子力発電所の周辺地域から避難してきた1000人以上の人々とともに、競技場の廊下に住んでいる。 「東京電力のことは信用していた。東電の人はいつも、こういうことは絶対にあり得ないと言っていたから、あの人たちを信じていた」。ハヤシさんはそう言いながら、果たして自宅には戻れるのか、1週間以上前の避難時に置いてこざるを得なかった猫と犬はどうなるのかと嘆いた。 福島第一原発の問題が最終的にどんな影響をもたらすかは、まだ明らかではない。現場では今でも、3月11日の地震と津波によって安全システムが機能しなくなった後に始まった危険な核燃料の過熱を抑制