<新宿/初日/ポール・トーマス・アンダーソン新作> さまざまな表現(映画、文学、音楽…)のゴール地点が「人の感情を強く揺さぶること」であるとするなら、ゴールへたどり着く方法は無限なのではないかと、『ザ・マスター』を見ながら考えた。ポール・トーマス・アンダーソンは、伝わりやすさやテンポのよさといった映画的文法が要請する迂回を止め、代わりに、最短距離でゴールへ向かう映画を撮り始めている。『ザ・マスター』は、こうしたPTAの意欲的な挑戦が随所に見て取れる作品だ。143分の上映時間のあいだ、何度も強い興奮と高揚をおぼえたし、見終えてみて、彼は新しい表現の領域へ進もうとしているのだと感じた。 たとえば、ホアキン・フェニックスが三人の男に追われ、畑を走って逃げるシーンの圧倒的な迫力。このとてつもない強度はいったい何なのだろうか? ひとりの男が走るようすを、並走するカメラがとらえる、それだけでおもわず叫