中東を担当するカイロ特派員時代、私は家庭教師を付けて語学を勉強していた。といってもアラビア語ではない。ペルシャ語やヘブライ語でもない。今や地球上で誰も日常言語として使っていない古代エジプト語のヒエログリフ(神聖文字)である。考古学専攻のエジプト人の大学院生に頼み込み、週1回、2時間の授業を受けていた。 なぜそんなことを思い立ったのか。 きっかけは2017年4月、カイロ着任早々にエジプト北部サッカラの「階段ピラミッド」近くにある壁画を取材した時のことだ。案内してくれた考古学者のアイマン・ガマル氏が碑文を見ながら「この文字は『家』を表します」などとスラスラ説明することに驚いてしまった。専門家なので当たり前と言えばそれまでだが、ヘビや鳥といった象形文字が、読む人が読めばスーッと意味の通る文章になり、まるで魔法のように解読されてしまうのを目の当たりにして思わず感動してしまったのだ。 取材の終わりに