大統領選挙でのイデオロギーとモラルの攻防 現代アメリカの政治思想史家パトリック・J・デニーンは、「リベラリズムは、その成功ゆえに失敗した」(角敦子訳『リベラリズムはなぜ失敗したのか』(原書房、2019年)参照)と論じている。個人の権利に特化したリベラリズムは、共同体を破壊し、モラルの涵養を骨抜きにし、弱肉強食のグローバリズムという野蛮な世界をもたらしたという彼の主張には首肯すべき部分も多い。 しかし、アメリカの政体においては、リベラリズムの担い手が国家(ユニオン)であったという事実も見逃せないのである。民間社会の自立性が極度に強いアメリカでは、実はモラルが強固なプロテスタント的世界なのであり、事実、アメリカ大統領選挙は、モラルの担い手になると有権者に思われた人物――たとえば前述のジャクソンから始まり、ロナルド・レーガンもこの列に加えられるだろう――が、「反エスタブリッシュメント」の旗を掲げ