学生のころ、東京湾の屋形船でアルバイトをしていた。今でも繁忙期になると手伝いに行く。お花見や納涼船、忘年会や新年会のシーズンになると、サラリーマンや大学生たちが大挙して乗船してくる。 そんな屋形船で、よく似たような光景を目にする。僕ら添乗員は、客間と引き戸で仕切られたスペースに待機しているのだが、宴会も終盤に差しかかるころ、そこに数名のお客さんがバッグを持ってやって来るのだ。 彼らはそこで服を脱ぎ、バッグから取り出した衣装に大急ぎで着替える。ある年は「ギター侍」、ある年は「ハードゲイ」、そして去年は海パン一丁の「おっぱっぴー」だった。見た目こそフザケた彼らだが、その顔にはどこか悲壮感が漂っている。そして深呼吸をひとつ入れ、引き戸の向こうへ飛び出していく──。 本書の基本的なテーマは、近年増え続ける「お笑いタレント志望者」について。著者はお笑い学校の講師も務める“お笑いプロデューサー”であり