これも高校時代の記憶。北杜夫の私小説を読んでいると、希死念慮のある人に「とりあえず30歳まで生きてみるようにと助言する」ようなことが書かれてあった。やや曖昧な記憶だが、そのように彼は言っていたようなのである。当時、僕は、 ふ~ん・・そういうものなのか・・ くらいでそれ以上深くは考えなかった。当時は精神科医になるなんて思っていなかったし。 いざ、精神科医になった時、この言葉は相当に言い辛いことに気付いた。 なぜなら、30歳になってもその人が同じ状態だったら、次はどんな風に言って良いかわからないから。この言葉は単に問題を先送りしただけに過ぎない。だから、僕は患者さんに同じことを言ったことはない。 ただ、今の30歳と当時の30歳は随分違う。今の人は40歳前後でもけっこう若いし、当時の人より同じ年齢でも老化が進んでいないように見える。まして北杜夫が診療していた時代の30歳はいろいろな精神症状がある