疲れていた。 泥のように疲れていた。 締め切りが迫った原稿を、ギリギリまで書き終え、気づけば朝すらも通り過ぎ、昼になっていた。 その足で用意をし、広島県福山市の講演会で2時間喋り倒した、帰りだった。 東京行き最終の新幹線・のぞみ64号の4号車に、走ってなんとか飛び乗る。 乗客は私と同じように皆、長い一日の終わりに放心しているようで、静かだった。 いつの間にか眠ってしまった私は、車内チャイムの音で目を覚ます。 聞き逃した次の停車駅を確認するために視線を上げると、車内の電光掲示板では「次は新大阪」と光っていた。 まだ新大阪か。 もう一眠りしようと思ったが、なんとなく電光掲示板を眺めていた。 やがて表示はニュースにかわり 「歌手・槇原敬之容疑者を逮捕 覚醒剤取締法違反の疑い」 と表示されていた。 ああ残念な話だな、と思った。 様子がおかしいことに気がついたのは、名古屋を過ぎて、しばらく経った頃だ