クラウジウスは近代熱力学の創始者の一人であり、「エントロピー」という用語の発案者であるが、この言葉を創る前は「変換の等価値」という呼称を用いていた。今日物理学の専門用語として使われているエントロピーは、交換の対価という経済学的な発想から生まれた概念であった。そもそも熱力学自体が、蒸気機関の熱効率の向上という経済的な関心から生まれた物理学の分野であり、半分物理学であるが、半分経済学でもあるような学問なのである。クラウジウス自身、そのような問題意識はなかったとはいえ、今日、エントロピーという概念は、地球の資源問題や環境問題を考える上で重要にもなっている。 1 : クラウジウスの力学的熱理論の出発点 クラウジウスの熱力学は、1850年、54年、62年、65年の四つの主要論文によって漸次形成されていったのであるが、本節では、クラウジウスの力学的熱理論の出発点となった、1850年の論文熱の動力および