改造社が初めて発売したこの本は、いわゆる文学の名作を「一円」という安さで大量に売り、それは当時勃興してきた、サラリーマンなどを代表とする中産階級に大きく受容されたのであった。 戦争を挟んで日本が高度成長に向かう中で、こうした「消費財としての本」はますます大量生産、大量消費されるようになり、そしてそれを後押ししたのが「取次」の存在だった。 日本では、この「取次」が他国に比べてきわめて高度に発達してきた歴史があり、それによって、全国にさまざまな本が効率よく配本される仕組みが整った。そのため消費財としての本の流通が異例なまでに整ったわけである。 このように、明治以降、日本における書物の流通システムと書店の変容によって、もともとは読者に近い存在であった出版社や作家が、そこから遠い存在になっていった。 結果として、作家と読み手が大きく離れてしまったことにより、出版業界にとって、読者の共感を得られやす