2014-09-23 釦 道端に釦(ボタン)がひとつ落ちていた。花のかたちをしていて、中央に真珠のようなビーズが嵌っていた。七歳のわたしは「真珠のような」ではなく真珠だと思ったし、だから宝物を見つけたように興奮しながら拾って、走って家に帰って母に渡した。 母は一度ありがとうと受け取ってから「きれいだと思うならあなたが持ってなさい」と返してきた。 お母さんは全然こんなの欲しくなかったんだな、とがっかりした。こどものわたしには宝石に見えたとしても大人にとってはただのごみらしかった。小説というのをはじめて書いたのは三十五歳の時だった。ひとつ書いたらその後から書きたいことが次々湧いてきて、夢中になって書き続けた。ようやくかたちになったものを公募の賞に出して、それが最終候補に選ばれたという電話をもらった時に最初に頭に浮かんだのは母の顔だった。 子どもの頃から何をやってもだめで、ほめられたことが