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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (2)

  • だめって言って - 傘をひらいて、空を

    後輩はかぶと虫を観察する小学生のようにしげしげと私をながめ、マキノさんが弱ってる、とつぶやいた。なぜわかると問うと、しおらしい、と即答する。憎たらしい。 実際のところ私は弱っていた。最終局面でひっくり返された仕事のかたまりを目の前にしてすべきことがわからないほど未熟ではないにせよ、すべきことに含まれる判断の回数と作業の量にうろたえないほど訓練されてもいなかった。私はそれを計測し、朝までにはなんとかなるかもしれない、と思う。同じ案件にアサインされている先輩を途中で帰すこともできるんじゃないかと思う。 その先輩が、珍しい、と口をはさんで声を一オクターブ上げ、ねぇミホちゃん助けてぇ、と続ける。当年とって四十二のごつい中年にして心にオカマを持つ男であるところの彼は、自称女子力が強いために甘えることを躊躇しない。もうだめぇ、あんな無茶ぶりされて、マキノさんもあたしも死んじゃう。 イケタニさんもマキノ

    だめって言って - 傘をひらいて、空を
  • 弱者の様式 - 傘をひらいて、空を

    槙野さんは相変わらずサムライだなあと言って彼は笑った。私は最低限の愛想をいやいやながらに添加した顔を傾けた。私はこの人を好きではなかった。ふだんはたいした接点がなく、親しくもないのだから、崩れたことばを発すべきではない。そう思って、口を利くたび不快を感じた。ふだん一緒に仕事をして信頼している年かさの上長が敬語を遣わないのとはわけがちがう。 彼は私を査定し、取り替えの利くものとして取り扱う。そんなのはかまわない。だってここは会社だ。私は私の能力と労働を売り、彼はそれを審査する。そうした間柄には表面上の礼儀正しさが必要で、でも彼は私に対してそんなコストの必要性を認めるつもりはないらしかった。所有物に対するようなある種のなれなれしさを彼は示していた。猿を見る猿回しの目。 サムライだよ、だって、と彼は背筋を曲げたまま続ける。昔からときどきさ、三年に一度くらいかな、抗議っぽいことするでしょ。これは適

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