後輩はかぶと虫を観察する小学生のようにしげしげと私をながめ、マキノさんが弱ってる、とつぶやいた。なぜわかると問うと、しおらしい、と即答する。憎たらしい。 実際のところ私は弱っていた。最終局面でひっくり返された仕事のかたまりを目の前にしてすべきことがわからないほど未熟ではないにせよ、すべきことに含まれる判断の回数と作業の量にうろたえないほど訓練されてもいなかった。私はそれを計測し、朝までにはなんとかなるかもしれない、と思う。同じ案件にアサインされている先輩を途中で帰すこともできるんじゃないかと思う。 その先輩が、珍しい、と口をはさんで声を一オクターブ上げ、ねぇミホちゃん助けてぇ、と続ける。当年とって四十二のごつい中年にして心にオカマを持つ男であるところの彼は、自称女子力が強いために甘えることを躊躇しない。もうだめぇ、あんな無茶ぶりされて、マキノさんもあたしも死んじゃう。 イケタニさんもマキノ