中上健次とはじめて会ったのは、新宿の風月堂であつた。私は河出書房新社の編集者金田太郎から、同時代に才能豊かな作家がいるから会って、おいたほうがいいだろうといわれ、お互いの知っている場所として選んだのが風月堂だったのだ。今思えば風月堂は、フーテンの溜まり場といわれ、前衛芸術家の議論の場として当時の世相を表わした有名な場所であった。いわば思わせぶりな場所であったのだ。 中上健次にしろ私にしろ、初対面にそのような場所を選ぶのは、他の場所を知らないということはあるにせよ、お互いに一種の見栄を張っていたのだろう。後に中上のエッセイを読んで、新宿のジャズ喫茶「ピットイン」や「ビレッジベンガード」あたりに出入りしていることを知るのだが、私もまた山下洋輔トリオの早稲田大学のバリケード内での演奏を、マイナーレーベルでレコードにしたりしていた。同時代を生きているそんなにおいを感じていたから、お互いに風月堂で待