高校一年の頃(かれこれ34、5年前)、朝の通学時に同じバス停から同じバスに乗る中年の男がいた。バスの座席はいつも6割方塞がっており、その人が私の隣に時々座ることを最初はあまり気に留めていなかった。 ある日、隣に座った男は新聞を広げた。その肘が、私の脇腹に何度も触れた。自分の腕でガードしたが、座席の背もたれに肘を押し付けるようにして同じことをしてきた。 そこでやっとこれは痴漢だと気づき、私は肘で押し返した。すると新聞を畳んで腕組みをし、腕を私の腕に密着させて外から隠しながら、今度は私の脇と二の腕の間に指先を差し込んできた。 もう少し大人になっていたら、はっきり「やめて下さい」と言っただろう。あるいは「この人、痴漢ですっ」と声を上げたかもしれない。でも当時の小心でウブな私にそこまでの勇気はなく、俯いたまま黙って席を立った。 その男とは降車駅も同じだった。そそくさと降りた私の後ろから降りて来て、