幼児が自他未分化の「癒合的社会性」を生きているところから、どのようにして自己と他者との境界線が引かれるようになるのか?──これが前回から持ち越されている問いだったが、その契機となるのは「鏡像段階stade du miroir」。発想の源はジャック・ラカンに負っている。 ラカンといえば構造主義者の一人にも数えられるが、むしろ大切なのは、パリ・フロイト派を旗揚げし、それをコーズ・フロイディエンヌ学派にまで牽引していったカリスマ精神分析家としての側面であるだろう。奇矯な振る舞いを見せたさまざまな逸話も残っているけれど、どうしてなかなか、メルロ=ポンティ逝去の知らせを受けた時など、しごくまっとうに涙を流し、彼のセミネールでも弔辞を述べている。それもそのはず、彼らは、かなり親密な友人同士だったようで、二人それぞれの娘たちも、一緒にヴァカンスに出かけるほど仲が良かったという。 そんな仲もあってだろうか