本書のタイトルに「戸籍」があるのは、戸籍のもつ二つの側面(徴発と課税のためという国家からみた側面と、個人にセルフ・アイデンティティをあたえるという私的側面)を本書は考えようとしているからである。不破氏によれば、戸籍制度は東アジアの中華文化圏に特有のものである。それは戸籍の持つ私的側面、セルフ・アイデンティティの側面が西欧の制度ではみられないからである。 不破氏によれば、古代に労働者としての徴用のためにつくられた戸籍制度は、その後むしろ個人アイデンティティの側面で日本人に意識されてきたが、明治国家となって、ふたたび徴兵のための制度という側面を担うようになった。 丸谷氏の作品に、1)徴兵忌避をあつかったものと、2)自分は親の本当の子ではないのではないかというテーマをあつかったものが多いことを不和氏は指摘し、丸谷氏が次男として生まれていながら才一という名前をつけられていることからその原因を考察し