「昨日、被害に遭った人はいませんか?」。教授の唐突な質問に大学院生たちは首をかしげ、お互いに見合わせた。どのような事件が勃発したのか分からなかったからだ。その場にいた私も何の話なのか見当もつかなかった。皆が沈黙を守る中、厳かに教授が語り出した。 「昨日、試合で日本が勝った後、国旗が掲揚され、国歌が流れたでしょう。この映像をみて精神的苦痛を受けた方はいませんか?」。呆気(あっけ)にとられている私をよそ目に、多くの大学院生たちが教授の言葉をありがたそうにノートに書き記し始めた。この人たちとは一緒にやっていけないと思った瞬間だった。今から15年ほど前の思い出である。 古い記憶が甦(よみがえ)ってきたのは、朝日新聞の「君が代暗記調査 内心の自由を脅かすな」と題した社説(7月3日付)を読んだからだった。 大阪府吹田市教育委員会は、市内の各校に「国歌の歌詞を暗記している児童・生徒数」を学年ごとに集計し