第二章 暗い井戸の底をのぞき込んだ日 (4)性格と人相を変える努力静六は自らの人生を、人並み外れた努力と工夫によって切り開いていった。 実家にいた頃の勉強時間不足は〝米搗き勉強〟で克服し、東京山林学校に入学してからの運動不足は〝エキス勉強〟で乗り切ったわけだが、今度は驚くべきことに、自分の性格をも矯正しようとするのである。 彼は自分の性格に関して、こんな思い出話を自伝に記している。 満一〇歳頃のこと、若い女性の使用人が米を研(と)いでいる時、米を流しにこぼしているのを見つけた。これはあまりにもったいない。一生懸命自分が搗いた米だという思いもあったのだろう。その場で叱っただけでなく、母親に告げ口までした。 それを大叔母が見ていた。彼女は祖父友右衛門の妹で他家に嫁いでいたのだが、たまたまこの日は実家に来ていたのだ。 彼女は静六を家の近くの森の中まで連れていくと、こう諭した。 「人間は寛大でなけ