2018年12月、本好きのあいだに起こったざわめきを覚えている。「『SFマガジン』百合特集号が、発売前重版するらしい」──。“百合”とは、女性同士の関係性を描く創作のジャンルだ。今やしっかりとファンのいるジャンルではあるが、そこまで大きなパイだという印象はなかった。ところが、SF専門誌『SFマガジン』(早川書房)2019年2月号、つまり百合特集号は、発売前から予約が殺到。緊急重版分の在庫も一瞬で底をつき、文芸誌では異例の3刷を増刷、『SFマガジン』創刊から約60年の歴史の上で、初の快挙を達成したという。なぜ今、「SF×百合」が売れているのか? 老舗文芸誌の編集者が考える、新時代の文芸とは? 本特集の担当者である編集者・溝口力丸さんにお話をうかがった。 ■『SFマガジン』史上初の快挙達成、百合特集 ──『SFマガジン』百合特集号、すごい売れ方でしたね。 溝口力丸さん(以下、溝口):百合特集の