熊本県水俣市。恋路島を眼下に望む水俣市立水俣病資料館では、ある企画展が開催されている。それは、「福島原発事故風評被害――水俣の経験を伝えたい」。水俣は水俣病の差別と偏見を乗り越えた過去を持つ。その経験を、原発事故の風評被害に直面する地域に伝えようと開いた企画展だ。 水俣病の被害者や関係者が原発事故に寄せたコメント、被災地に向けた来館者の顔写真付きメッセージなどが即席のブースに展示されている。自治体が運営する資料館は行政目線で四角四面な展示も少なくないが、水俣病資料館は被害者や市民の息づかいを感じる情味のある展示が多い。 乗客は水俣に近づくとパタパタと窓を閉めた 1956年に水俣病が公式発見されて以来、水俣の人々は重い十字架を背負わされてきた。 重度のメチル水銀中毒に罹患した水俣病の被害者は生命と日常の安息を脅かされただけでなく、地域社会からのいじめや偏見に晒された。水俣は水俣病の原因企業、