いつもいく店で会う人がいる。話はしない。 朝に乗る決まった時間の電車でだけ、見かける人がいる。 毎日同じ時間にとある喫煙所だけで会釈する男性。一度だけライターを借りた。 務める飲食店に決まった曜日だけにくる女性。 話をしたこともなければ、何処に住んでるのかも、名前も知らない。 けれど、好きな珈琲が何かは知っている。 読んでいる本が何かも知っている。 吸っている煙草の銘柄も。 決まって頼む食べものも、好きな飲み物も知っている。 逆に、それしか知らないとも言える。 決まった場所や曜日や時間、其処でその人を見ると安心するのはなんだろうか。 しばらく見かけなくなるとどうしたんだろうかと気にもなる。 何も知らない人を知っているということに、その距離にすっきりとした心地よさを感じるのはなんだろうか。