日記の主である紀州和歌山藩士酒井伴四郎は万延元年(1860)当時28歳、25石の下級武士で、上司にあたる叔父・宇治田平三、同僚の大石直助らとともに、装束に関する着用の指導にあたる衣紋方として同年から一年七カ月の江戸勤務についた。日記は万延元年(1860)五月十一日から十一月三十日までの約七カ月である。 直前に大老井伊直弼は暗殺されるわ、紀州藩内も政争で重臣が失脚するわ、アメリカ公使ハリスらをはじめ外国人が来日しはじめるわ、攘夷の嵐が吹き荒れるわで、幕末の江戸は大わらわ・・・なはずだが、下級武士の彼にはそんな激動は特に関係なく、毎日の食生活とか、倹約生活とか、江戸観光でどこ行ったとかの話で占められているのが、実に等身大という感じで面白い。 本書で紹介されるのも大半が彼らが何食ったかである。紀州から江戸への道中だけでもあんころ餅だうなぎだわらび餅だ柏餅だ葛餅だ栗餅だ力餅だと餅ばっかりだけど道中
人類、酔っぱらい過ぎである。 なにしろ有史以前から、いや、人間が木から下りて二足歩行を始めた時から、人類は酔っぱらっていた。最初は、熟して発酵した果物。次に、大麦と水を混ぜた原始ビール。そこから人類は糖分やビタミンBを摂取し、アルコールで殺菌された飲料を得ていた。つまり酒は栄養と安全を満たすための必需品であり、我々は酒を飲むために進化したのである。 そんな大胆な仮説から始まる本書は、時代や場所によって変化する酔っぱらいの姿をひたすら追っている。女主人の経営する酒場でスパイスや子ブタと引き換えにビールを飲むシュメール人、神を讃えて暴飲と嘔吐と性交を繰り返す古代エジプト人、ギリシャ人は形式張った酒宴を開き、古代ローマ人は富と力を誇示しながらワインの薀蓄を傾ける。他方、古代中国では、聖書では、修道院では、イスラム社会では、ヴァイキングでは、ウェスタン・サルーンでは……と、読者はまるで古い世界の酒
◆ 月蝕(がっしょく) ◆ 文化9年(1812年)7月16日の夜に観測された月食は、鏡に匣(はこ)の蓋を覆うように、東から欠け始め、皆既月食になると、紫色に見えた。私の甥の万年(まんねん)が注意しながら観察していたところ、月の中にひとすじの黒い気流が起こり次第に暗くなった。月食がもとに復する時また黒い気流が見えたが、これはそのまま剥(お)ちた。その黒い気流は月の中だけで外には見えなかったという。 乙亥(きのとのい 1815年)11月の皆既月食の時は、西南より欠け始めて、初めは盆の中に墨汁をこぼしたようにくらくなってきて何にも見分けがつかなくなり、月の周りの星だけは爛々と輝いて見えた。 丙午(ひのえうま:1785年)元日の皆既日食は、太陽の色が茶色に見えて夕暮れのようで、雀などはねぐらに帰った。 寛保2年(1742年)壬戌(みずのえいぬ)5月の日食は、昼間が暗闇になって星座は光輝やき、さなが
はじめに 1 現代日本語の音声と音韻 五十嵐陽介 2 音韻の歴史変化 平子達也 3 現代日本語の文法 衣畑智秀 4 文法の歴史変化 衣畑智秀 5 現代日本語の語彙 金愛蘭 6 語と語彙の歴史的変化 橋本行洋 7 文章論と談話分析 澤田浩子・衣畑智秀 8 文体差と文体史 田中牧郎 9 言葉の変異と諸方言 平塚雄亮 10 コーパスと統計 佐野真一郎 11 理論的研究とは? 窪田悠介 12 日本語学史 山東功 用例出典 参考文献 索引 まえがきから要約すると本書は「細分化の進んだ日本語学諸分野について基礎を学びつつ全般を見渡せるように学べる」ことを目指しています。つまり,網羅性と先端性というなかなか両立しづらい2つの事柄を目指して書かれています。
大英図書館が所蔵する天草版『平家物語』『伊曽保物語』『金句集』(Shelfmark: Or.59.aa.1)は、16世紀の日本を訪れたキリスト教宣教師の日本語学習向けに編集された読本(リーダー)です。また、1592~1593年に印刷された活字印刷によるキリシタン版の一つです。縦17.0cm、横11.0cmの小冊子1冊ですが、大英図書館本のほかに所蔵は知られておらず、まさに天下の孤本として貴重なものです。 天草版『平家物語』『伊曽保物語』『金句集』は、中世日本語の研究資料として、重要視されてきました。ポルトガル語式のローマ字で書かれているため、当時の日本語の発音を知る手がかりを与えてくれます。また、口語体を用いているため、当時の話し言葉を知ることもできます。日本語史研究の一級資料として、多くの知見をもたらしてきました。 本Webサイトでは、大英図書館提供の天草版『平家物語』『伊曽保物語』『金
Twitterで新書に関する教員のやりとりを見たので,私が今年度言語学関係の授業でおすすめとして紹介したものを簡単に挙げておきます。新書は授業で取り上げるとなると意外と難しいこともあるのですが,手に入れやすく(比較的)安価で電子書籍も充実しているのがやはり良いですね。 以前紹介したものも含まれていますが,こういうのはいろんな形で何回もやるのが良いかと思いますので。 ちなみに,私は読書案内は授業で取り扱った内容の補足,延長としてやることがほとんどなのでまったく網羅的なものではありません。しかし新書はけっこう玉石混交というかクセの強いものもあるので,各方面の専門家が少しずつ紹介を書くというのも良いのではないでしょうか。 新書 言語学入門 黒田龍之助『はじめての言語学』 はじめての言語学 (講談社現代新書) 作者: 黒田龍之助出版社/メーカー: 講談社発売日: 2004/01/21メディア: 新
2019年02月15日17:00 by 東京創元社 SF不思議図書館 愛しのジャンク・ブック 第5回 もうひとつの『高い城の男』 カテゴリSF小説・エッセイ・評論 【はじめに 不思議な海外SFを探したり読んだり】 【第1回 クイズに答えてSF博士になろう】 【第2回 超人作家シルヴァーバーグ】 【第3回 隕石衝突から始まるヒーローの系譜】 【第4回 SFの料理と饗宴】 SF不思議図書館 愛しのジャンク・ブック 第5回 もうひとつの『高い城の男』 小山 正 tadashi OYAMA 1 ヒトラーをめぐる謎 久しぶりの更新である。諸事情で前回から時間が経ったが、この連載はまだまだ続く。というわけで、今更ながらご挨拶申し上げます。本年もよろしくお願いいたします。 さて、今回の「SF不思議図書館」は、ナチス・ドイツにまつわる書物をご紹介しよう。というのも先日翻訳された長篇ノンフィクション『ヒトラ
この前紹介した市瀬英俊「夜の虹を架けるー四天王プロレス」を読み終えた。800ページ以上の大著で、自分ももう少し読むのに時間がかかると思ったのだが、「面白い」という理由だけでザクザクと読み進んでしまった。また文章で紹介された多くの試合が自分にとっても映像や当時の特集記事の文章が、ありありと浮かんでくるようなエポックメイキングな試合ばかりだったので、 そういう点でも読みやすかったのかもしれない。 ただ、 後でこの本全体の感想を書きたいとは思うけど、その前に、あとがきに大変衝撃的な一文があったので、 そのことを紹介し、多くの人に状況を共有してもらいたいと思う。 それは以下の通りだ。(あとがき821-822p) 夜の虹を架ける 四天王プロレス「リングに捧げた過剰な純真」 作者: 市瀬英俊出版社/メーカー: 双葉社発売日: 2019/02/06メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログを
当サイトでもたびたび取り上げている円城塔氏の『文字渦』。ここでは文字について書かれた小説でありながら、実際の文字を作字したり、組版についての実験的なことなど、文字や文章、書籍についての形態にとっても、あたらしい試みとなりました。 今回、作字や組版・製版、といった作業でどのようなことが行なわれたのか、作者の円城塔氏へのインタビューに続き、今回は制作にあたった株式会社DNPメディア・アートの御三方に、新潮社の御二方も同席の上、お話を伺ってきました。 株式会社DNPメディア・アート 社内認定マイスター(秀英体フォント管理・作成) 高橋耕一さん プリプレス制作第1本部 書籍組版センター 吉川正巳さん/長嶋英樹さん 株式会社 新潮社 「新潮」編集部 清水優介さん/出版部文芸第一編集部 加藤木 礼さん 聞き手:塚田哲也(大日本タイポ組合)
占星術、錬金術、魔術が興隆し、近代科学・哲学が胎動したルネサンス・バロック時代。工作舎では、その知のコスモスを伝える『ルネサンス・バロックのブックガイド』を出版します。50名をこえる執筆者によって、116エントリー、総数150冊あまりの書籍が紹介されます。 ※ 支援募集の締め切りは2019年月2月15日(金) 23:59です。 ※ お陰様で開始当日に第一目標を達成し、その後第二目標の80万円も達成しましたので、第三目標の150万円を目指して、引き続き支援を募集しています。 ※ 目標が達成されなくても、本書は来年2019年2月頃に刊行します。 ※ お支払い方法は、【クレジットカード】【コンビニ後払い】【銀行振込み】が可能です。(第一目標を達成したため【銀行振込み】も可能になりました。) ※ 日本で発行されたクレジットカードでしたら海外からでもご支援可能ですが、リターンの送付先が海外の場合は郵
久しぶりに単著を出せる運びとなりました。『目録学の誕生』というタイトルで、勤務先の名を冠した「京大人文研東方学叢書」というシリーズが臨川書店から刊行されていますが、その第6冊です。 コラムなどは楽しんで書きました(以前このブログに書いたことをまとめ直したものも少しだけあります)。広くお読みいただきたいと願っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。 刊行は、本年3月上旬の予定です。以下のリンクから予約いただければ幸いです。 https://amzn.to/2I9xsDz 『目録学の誕生−劉向が生んだ書物文化』 京大人文研東方学叢書 6 古勝隆一著 臨川書店、2019年3月 四六判・上製・紙カバー装・帯付 総268頁 本体3,000円+税 ISBN978-4-653-04376-8 人にとって書物とは何か。なぜ、書物は必要なのか 書物をぬきにして中国文化を語ることはできない。その書物は
ドキュメンタリー映画『つつんで、ひらいて』が、今秋に東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開される。 柳楽優弥主演の映画『夜明け』が公開中の広瀬奈々子が監督、編集、撮影を務めた同作は、中上健次や古井由吉、俵万智、金原ひとみら1万5千冊以上の書籍の装幀を手掛けてきた「装幀者」菊地信義を追った作品。手作業で1冊ずつデザインしている菊地の指先から、印刷、製本に至る工程を見つめ、ものづくりの原点を探っていく。撮影は2015年から約3年間かけて行なわれた。 菊地は「紙の本。その装幀という仕事を撮りたいという。言葉を、目から手へ、そして心にとどける仕事。思い掛けない若い監督の、本への思いに絆された。撮られる事で、新たに意識化できることもあるはず。どうあれ、紙の本の魅力を伝えるためにと引き受けた」とコメント。 また広瀬監督は「この映画に映るもの全てが菊地さんとの共作です。今もなお菊地さ
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く