全国で仏像や神像など寺社に所蔵される文化財の盗難被害が発生している。指定文化財など広く知られたものばかりが狙われるのではない。被害の中心となっているのは、その文化財的価値を知られることなく、各地の集落に暮らす人々が心の拠り所として守り伝えてきた、身近に祀られる数多くの仏像である。 こうした仏像などの盗難被害が発生する背景には、盗む側と盗まれる側の双方の要因が重なり合っている。古美術品市場において宗教美術は根強く人気のあるジャンルで、国内外を問わず取引が行われているが、現在はインターネット上で商品をたやすくやりとりできるオークションサイトもあり購入のハードルは大きく下がっている。それゆえに転売を目的として仏像を盗み取り市場に供給する卑劣な窃盗犯が出現しているといえる。 そしてもう一つの要因が、地域住民の高齢化と人口減少という社会の構造的な問題である。全国各地で寺院の無住化が進んでいるが、こう