「足のふみ場が、マジで、ない……」 ぼくが初めて、 ミタニさんの家に行ったのは、 ちょうど息が白くなり始めた頃だった。 原付バイクを飛ばしての、出張マッサージ。 「お歳暮のハム」みたいに分厚い手袋をしていても、 寒いものは、寒い。 しかも、時刻はもう、1時。 「冬ってやつぁ、深夜から支配を始めるんだな」などと 言いたくなるほどの凍えかたと、脳のやられ具合(笑) 止まらない鼻水。 顔が冷え過ぎたときの、何ともいえない、キーンとした頭痛。 ぼくは20代後半…… それこそ「ハナタレの見習い」だった。 ピンポーン…… ドアのベルを鳴らしても、返事はない。 「あんちゃんは、そのまま入ってきていいよ」 そうミタニさんから言われてから、 ただ挨拶のように鳴らすだけになった。 今日も、足のふみ場は、ない。 そして外と中の気温が、あんまり変わらない(笑) もう70歳近いはずのミタニさんが、心配になる。 でも