道場には橘岡(きつおか)と千川(せんかわ)の二人だけだった。 庭に臨む戸は全て開け放たれ、そこからは禍々しいほどに赤い夕日が差し込む。 乳首狩り本家十六代目当主・千川四志実はいつもと同じアロハシャツ──前だけは冗談のようにきっちり閉めている──のまま、微笑めいたものを浮かべて、向かい合った橘岡を見つめている。 橘岡はくたびれたスーツのまま、腰元に提げた刀に一瞬だけ目を向けた。千川の腰にも同じような得物が下がっている。 互いに凶器を手元に備え、打ち込める間合いを保っている。その状況に似つかわしくないほど呑気な調子で、千川が言った。 「悪いな。どうも時間が取れなくって……こんな夕方になってしまった」 「構いませんよ。こっちの方が都合がいい」 「都合?」 「道場生とか、外野がいませんから。苦手なんですよ、人の目」 「気が小さいんだな、橘岡。七人殺しとは思えない物言いだ」 千川の言葉に、橘岡は片眼