わずかな隙間さえ見つけられないほど、あらゆる空間が無機質なコンクリートの壁に覆われている都市。その中で、窒息してしまいそうな精神と肉体……。「もういい加減にやめてくれ!」。そう叫びだしたくなるほどの精神と肉体の軋みを、映画監督・塚本晋也は常にフィルムに刻み込んできた。 ある朝突然、肉体が鉄の細胞に侵されていく男の「衝動」を描いた1989年製作『鉄男』で注目されて以来、『東京フィスト』(1995年)、『バレット・バレエ』(1999年)、『六月の蛇』(2003年)……と、数多くの問題作を量産し続けているが、そのいずれの作品にも、都市と肉体、そして精神の相克が描かれてきた。 それが、2004年公開の『ヴィタール』を観ると、長年したためていたテーマに、大いなる「軌道修正」が図られていることに気付く。記憶や深層心理をテーマに、今度は、コンクリートの壁を超えて、自然や宇宙といった題材を描こうと試みてい