カイロの道端で著者は「それまでの生涯で見た一番粗末な食事(パンと小さな一束のネギ)」をしている男性2人から手振りで「いっしょに食べないか」と誘われる。その仕草はごく自然であった。著者の眼は啓かれる。ムハンマドは「二人前の食べものは三人に十分である」と語り残したではないか、と。本書は、「食」を通して、ともすれば誤解のされやすいイスラムの教えの本質に迫ろうとする力作である。 イスラムの食と言えば、厳しい食物禁忌から連想される制限の多いきわめて禁欲的な食事、あるいは千夜一夜の物語から思い浮かぶ手の込んだ料理の並ぶ贅沢な食卓のイメージが連想されるが、クルアーン(コーラン)は、「食べたり飲んだりしなさい。だが度を越してはならない」と中庸を教えているのである。 「同じ食習慣をもつことによって、集団的アイデンティティが成立、存続するのは一般的である」のだから、何もイスラムが特殊なわけではない。日本にも多
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