2012年9月1日、フォトジャーナリストの笹本恒子さんは98歳の誕生日を迎えた。「60歳で還暦を祝うなんて早すぎるわよね。お祝いはもう少し先でもいいんじゃない?」と笹本さんは笑う。そう言うのも無理はない。笹本さんは、普通なら引退を考えそうな71歳という年齢から写真家としての人生を再スタートさせ、何度目かの「大輪」を咲かせたところだからだ。 2012年8月中旬、笹本さんは東京・蔦谷書店にいた。写真集『恒子の昭和』の出版記念ミニ・トークショーとミニ写真展が開かれたからだ。歴史上の人物や出来事を独特の構図と目線で写した傑作写真の数々を、スライドで見せながら笹本さんが解説するこのイベントには、開始の数時間前からファンが押しかけ列をなした。 ここ1年ほど毎日、メディアの取材やトークショー、講演などに引っ張りだこで、本業の撮影に取り組む暇がないのが悩みだ。「忙しすぎて、撮影の仕事をする暇がないの」。少