いよいよか―― 土俵に上がった力士は、横目で枡席の方を見た。 その日のために設置された椅子に座ったトランプが、馬鹿のような薄笑いを浮かべてこちらを退屈そうに眺めている。 国技たる相撲の伝統からすれば、絶対にあってはならぬ光景であった。 この日のために、ワシは―― 「はっけよーい……」 行司の声も、もう聞こえない。 今だ―― 土俵を駆け下りた力士は、驚愕する相撲協会関係者を尻目に、トランプ目指して一直線に突進する。 長年鍛え上げた必殺の張り手ならば、トランプを一撃であの世へ送ることなど造作もない。 護衛の黒服がたちまち十人以上も立ちふさがるが、命を捨てた力士の猛進を止められるものではなく、紙屑の如くに片端から蹴散らされる。 その巨体を持て余したかのように、トランプがのろのろと立ち上がった。 逃がしはせぬ―― 「お命頂戴仕るッ!」 憎き相手に繰り出された渾身の張り手。 しかし―― それを紙一重