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会話術
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水族館という施設は、老若男女を問わず常に人気があるようです。我々が普段見る陸上の世界とは全く違う、素晴らしく豊穣なもう一つの世界を垣間見ることができるからでしょう。 実は分子レベルで見ても、海の生物は陸上とは全く違った世界を造り上げています。海洋生物の生み出す化合物は極めて多彩であり、陸上生物には見られない不思議な構造のものが数多く存在します。これはすなわち、人類にとって有用な化合物――もちろん危険な化合物も――が、多数潜んでいるであろうことを意味しています。 多様な海洋化合物の中でも特に目を引く一群として、ポリエーテル類と呼ばれる物質群があります。多数のエーテル環(酸素原子を一つ含む環)がずらりと梯子状に連結しており、竜を思わせるようなきわめて奇妙な構造で知られます。 これらポリエーテル類は、見た目が変わっているだけではありません。これまで知られている低分子化合物の中でも、最強クラスの毒
前回ははやぶさサンプルの取り扱いのお話をいただきました。今回はサンプルの分析についてです。 −「ただはやぶさの持ち帰ったサンプルは、予定よりずっと少なかったと聞きます」 長尾教授(以下N)「当初の予定では、はやぶさからイトカワの表面に弾丸を撃ち込み、舞い上がった“砂”を数グラム回収してくるはずでした。ただそれはうまく行かず、微粒子をわずかに回収できただけでした」 はやぶさは、5gのタンタル製の弾丸を300m/秒の速度でイトカワ表面に撃ち込み、舞い上がった岩石を回収する予定であった。 −「1マイクログラムもないほど?」 N「我々が測定した粒子は、簡単には重さが量れないほど小さいので推定するしかないですが、大きい粒で0.2マイクログラム、小さいのは0.06マイクログラム程度と思われます」 −「全然目には見えないレベルですね」 N「はい。こういうチリが1500粒ほど取れていたんですが、他の大学や
昨年6月、日本の打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ」が宇宙から帰還し、大きな話題を集めたことは記憶に新しいと思います。はやぶさは、小惑星「イトカワ」までたどり着いてみごとその微粒子を回収、そして往復60億kmもの旅を終え、大気中に燃え尽きて散りました。その姿は感動を呼び、映画化もなされるなど日本中にはやぶさ旋風を巻き起こしました。 着陸するはやぶさ(想像図) しかし、その持ち帰った微粒子を分析し、太陽系の姿を解明するという仕事はまだ始まったばかりです。大がかりな宇宙プロジェクトほどの華々しさはありませんが、これが成ってこそはやぶさの旅は完結するのだともいえます。 理学系研究科地殻化学実験施設の長尾敬介教授らはその分析に当たり、イトカワの、そして太陽系の起源に迫る成果を挙げました(Science誌の「はやぶさ」特集号に掲載された長尾グループの論文)。今回は長尾教授および、この研究室出身のOBた
昨年4月より、当グローバルCOEは新しい推進者を迎えています。理学系研究科化学専攻に東大先端科学技術センターより移籍された、菅裕明(すが ひろあき)教授です。この春より研究室全体が本郷に転居し、本格的に始動することになっています。 菅教授の専門分野はケミカルバイオロジー、すなわち有機化学などの手法を武器として生物学へ切り込んでゆくという、比較的新興の分野です。特に最近力を入れているのが、生命の持つ物質合成システムを「進化」させ、天然には存在しない高機能物質を新しく作らせてしまうという、ちょっと驚くような技術です。多くの分野に大きな影響を与えそうな手法ですが、一体どうすればそのようなことが可能になるのか、お話を伺いました。 菅 裕明教授 ・新たなタンパク質を創る 生命のシステムを支えている物質がタンパク質(ペプチド)であることは、今さらいうまでもないと思います。タンパク質は基本的に20種類の
科学の各分野において女性の進出は目覚ましいものがあり、当GCOEでも多数の女性研究者が活躍しています。そんな中の一人、中村優希さん(理学系研究科化学専攻、中村研究室博士課程2年)がこのほど「ロレアル−ユネスコ女性科学者日本奨励賞」を受賞されました。 中村優希さん この賞は、日本国内で物質科学または生命科学を研究する博士課程の女性研究者(40歳以下)が対象となり、毎年物質・生命系から2名ずつが選ばれます(今回は宇宙飛行士の山崎直子さんが特別賞を受賞したので5名)。東京大学理学系研究科からの受賞は初めてのことです。また今回は中村さんを含め、4名中3名を東京大学の学生が占めることになりました。 中村さんの受賞対象になった研究は、「炭素−フッ素結合の活性化による新規合成反応の開発とナノサイエンスへの応用」というものです。フッ素は電子を強く引き込むなど特殊な性質があり、有機化合物に組み込むとその性質
自然界には、誰の手も加わっていないのに、複雑で美しいかたちが創り出されることがままあります。よく知られている代表的な例は、雪の結晶でしょう。雪粒を作っているのは単純な水の分子であり、ここには酸素原子に水素原子が2つついているという以上の情報は何もこめられていません。しかし水を一定の条件で冷却すると、何も外から手を加えずともあの美しい六角形の結晶が自然に出来上がります。 雪の結晶の例(Wikipediaより) このように、部分の単純な総和を超えた性質が、全体として現れる現象を「創発」と呼びます。単純なつくりの神経細胞が集まって複雑な「意識」が生まれるのも、人々の話し合いから新たなアイディアが生まれるのも、一種の創発といえます。 ナノレベルでも「創発」は起きています。ある種のウイルスの殻(カプシド)は、数百ものタンパク質の断片が、見事に対称性の高い正20面体型に集まってできています。図に示した
「優れた研究」の基準というのは人によっていろいろであると思いますが、科学関係の物書きをしている身の筆者には、ひとつ明快な定義があります。「専門家以外の人にも、ひとことで説明できる研究であること」です。実際ノーベル賞級の仕事というのは、「電気を通すプラスチックができた」「分子の左右を作り分けた」「細胞を光らせて生命現象を目に見えるようにした」など、たいていの場合一言ですぱっと説明ができるものです。 今回紹介する「アクアマテリアル」(論文:Nature 2010, 463, 339–343)はこの定義にまさに当てはまる、というよりそれを越えてしまったものです。何しろ「水からプラスチックを作った」という、まるで夢物語のような話なのですから。この驚くべき新素材は、水にごく微量の粉末3種類を加え、かき混ぜるとものの3秒でできあがります。95%以上が水分から成るにもかかわらず、20倍の長さに引き延ばし
電気のプラスとマイナスは引き合うが、プラスとプラス、マイナスとマイナスははじき合う――これは小学生でも知っている、自然界の基本中の基本といっていい大原則です。モーターや発電機など、現代文明を支える機械も、この原理によって動いています。しかしそんな逆らいがたい基本原理を乗り越えるのは、科学者にとって大きな醍醐味でもあります。 川島隆幸教授 このほど、川島隆幸教授・狩野直和准教授のグループは、負に帯電したケイ素原子同士を結合させるという離れ技に成功しました(Nature Chemistry 2, 112 - 116 (2010) )。ケイ素は通常4本の結合の腕を持ちますが、場合によって5本目の結合を作ることも知られており、その場合ケイ素原子は負電荷を帯びるように表記されます。ただしこの5配位ケイ素化合物は基本的に不安定で、何かあれば結合の一つが脱離し、安定な4配位状態に戻ろうとします。よく知ら
小宮山研究室では他にも魅力的な核酸の化学を展開しています。ひとつは、今年2009年、ノーベル医学生理学賞の対象となったテロメアの研究です。 小宮山眞教授 生物のDNAは、細胞核の中でただ長々とのたくっているわけではなく、ヒストンと呼ばれるタンパク質に巻きつき、一定の形を取っています。これが染色体で、ヒトの場合大小交えて計46本が存在している――というのは、みなさんよくご存知と思います。 DNAは極めて細長い分子ですが、当然末端が存在します。この末端は、他に見られない特殊な構造をとっており、これが「テロメア」と呼ばれるものです。 通常、ウイルス感染や化学物質によってDNAが切断されて末端部が露出すると、それを修復・切断する酵素が働きます。しかしこれらの酵素は、正常な末端であるか、何かの事故で露出した末端であるか見分けをつけてくれるわけではありませんから、正常な末端もそのままではこれらの酵素に
本日、理学部1号館小柴ホールにて、「ノーベル賞・フィールズ賞受賞者による事業仕分けに対する緊急声明と科学技術予算をめぐる緊急討論会」が行われました。出席したのは小林誠(2008年ノーベル物理学賞)・野依良治(2001年ノーベル化学賞)・森重文(1990年フィールズ賞)・利根川進(1987年ノーベル医学・生理学賞)・江崎玲於奈(1973年ノーベル物理学賞)の各氏、そして発起人となった石井紫郎東大名誉教授です。進行中の「業務仕分け」で科学技術関連の予算が次々削減を受けたことに対し、トップレベルの科学者が集結し、声明を行いました(声明文はこちら)。 ここでは出席者6名による談話を掲載いたします。 小林誠氏: スーパーコンピュータの話題が多く取り上げられるが、科学全体の問題である。鳩山政権は科学技術で世界をリードするという政策を掲げていたはずだが、その方向との整合性はどうなるのか理解しがたい。 野
Angewandte Chemie誌のEarly Viewに、当拠点の松尾豊特任教授・中村栄一教授の連名での論文が掲載されました。松尾先生は35歳、この4月に研究室を立ち上げたばかりの気鋭の研究者です。 松尾豊特任教授 松尾研究室は「光電変換化学講座」の名の通り、フラーレン誘導体をベースとした太陽光発電を主体に研究しています。フラーレン誘導体合成反応の開発といった基礎研究から、商品としての実用化までをトータルで目指す研究体制をとります。このためフラーレンの化学変換技術に関しては世界でも最高レベルにあり、実用化に関しても多くの実績を持つトップメーカー・三菱化学と組んで、強力な体制を築き上げています。 今回の論文は、C70誘導体の合成と性質の解明という、基礎に近い方の研究です。このエントリではこの論文の紹介と共に、太陽光発電についても後半で取り上げたいと思います。 松尾先生が中村研究室の助手で
近年、我々の生活に最も浸透した材料といえば液晶が挙げられます。携帯電話、大型テレビ、そしてあなたが今見ているであろうコンピュータのディスプレイなど、液晶技術は日本を支える基幹産業と呼んで全く差し支えないでしょう。 工学系研究科・化学生命工学専攻の加藤隆史教授は、その液晶分野で世界をリードする研究者の一人です。今回は、Angewandte Chemie誌に発表された「ピエゾクロミックルミネッセンス液晶(こすると発光色が変わる液晶)」という不思議な物質について話を伺いました。 加藤教授 液晶は、その名の通り液体と結晶の中間状態にある物質です。液体のように分子が全く無秩序に動いている状態と、結晶のように分子が規則正しくびっしり詰まって全く身動きできない状態の中間――ある程度分子が規則的に配列しつつ、ゆらゆらとうごめく余地は残している、という物質です。 どんな化合物が液晶になりやすいかといえば、や
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