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おみそ汁
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「人類がなしとげた記念碑的な技術的偉業に目をくらまされてはいけない」――アセモグル & ジョンソン いたるところで「2023年の最重要ビジネス書」のリストに『技術革新と不平等の1000年史』が挙がっていたのは,意外でもなんでもないだろう.まず,著者たち自身の経歴からして,比肩する者がいない.ダロン・アセモグルのことを経済学界の発電所と呼んでも,本人の実績にばかばかしいほど釣り合わない: 「2005年から2020年のあいだに経済学のトップ5学術誌に掲載された著者の苗字でワードクラウドをつくるとこうなる」 それに,アセモグルは国々の発展を制度から説明する説の主要な提唱者でもある.これまでに,アセモグルは『国家はなぜ衰退するのか』やその続編の『自由の命運』(ジェイムズ・ロビンソンとの共著)という有名な本で,この説を展開してきた.ぼくが「包摂的制度」や「収奪的制度」がどうのって話をしてるときには,
1.はじめに 本稿『現代貨幣理論(MMT)入門』は、筆者(ビル・ミッチェル)が2022年11月5日に京都大学で行った講演に基づいている。 世界金融危機〔2007年〜2010年〕とその十数年後の新型コロナウイルスの世界的大流行によって、経済政策においても、またその政策の根拠となる経済学においても、新自由主義の時代が持続不可能であることが明らかになった。 過去数十年間、ほとんどの先進国では、政府が緊縮寄りの財政政策を偏重し、家計債務〔の拡大〕に依存して自国の経済成長を維持してきた。また、政府は「効率的市場」の定理を唱え、金融市場が非合理的に作用し、投資資金の配分を誤る恐れを否定することで、金融市場に対する監視の緩和が民間債務の急増を招いたことを正当化した。また、ニューケインジアン [1] … Continue reading 的なマクロ経済学が支配的であったため、不安定化の責任は金融政策に押し
原子力発電は,グリーンエネルギーの主力にはなりそうにない.主力は太陽光発電だろう(蓄電用バッテリーと併せて).とはいえ,それでも原子力が重要なことには変わりないよ.なにより,建設済みの原子力発電所はたくさんある.ドイツやニューヨークがやったように,そしていまカリフォルニアがやろうという構えを見せているように,そういう原発を閉鎖するのは,気候変動危機を目前にした状況では狂気の沙汰ってものだ.それに,原子力は天然ガスの最後のシェアを置き換える「クリーンファーム」電力をもたらす有用な源泉だ.原子力発電に環境保護団体が反対するのは愚かしい. その一方で,これまで歴代の大統領は民主党だろうと共和党だろうと,原子力発電にリップサービスだけしておいて,支援はほとんどしてこなかった.トランプは原子力研究にちょっとお金を出させたけれど,既存の原子力産業を支援するお金は大して出させなかった. でも,ジョー・バ
アメリカの不穏な情勢はピークを迎えていると,かなり早いうちにぼくは発言していた――だいぶさかのぼって,2021年中盤のことだ.それ以来に起きたいろんなことは,その判断と広い範囲で整合している.ただ,もちろん,不正だとして選挙に異論が唱えられたり今年の大統領選挙でトランプが当選したりすれば,状況は大きく変わるかもしれない.ともあれ,社会の不穏な情勢はちょっぴり引き潮になりはじめている小さなきざしはひとつまたひとつと現れている. たとえば,2020年2月(パンデミックが全面的に社会を襲う前)に比べて,いまニュースウェブサイトを人々が見る量はだいぶ減っている.また,右派系ウェブサイトへのトラフィックを見ると,非主流・過激派サイトも主流派サイトも,いっそう流入数が減っている. Source: TheRighting 左派はどうかと言うと,ハサン・パイカーみたいな主要な左派系ストリーマーの視聴数も,
「少なくとも、彼(ヒトラー)はアウトバーン(高速道路)を建設した」。ナチスが国内であんなにも支持された理由として両親や祖父母の口から繰り返し語られるがゆえに、多くのドイツ人の記憶に刻み込まれている文句である。ナチス政権が積極果敢な対外侵攻からジェノサイドに至るまでの一連の政策を推し進めるためには、国民からの圧倒的な支持が欠かせなかった。高速道路網の整備は、ナチス政権の疑いもなく光の面に属する成果として民衆の記憶の中に保存され、1933年以降にナチス政権が熱狂的に支持されるようになったのはなぜなのかを難なく説明してくれる絶好の答えとしてしきりに持ち出される格好になっている。 インフラを整備するための公共投資は、人心(国民のココロとアタマ)を掴む(つかむ)ことが果たしてできるのだろうか? 「ナチスがあんなにも支持されたのは、高速道路網を整備したから」という上の世代がひょいと口にする説明は、単な
Journal of Economic Perspectives誌に掲載されたジェルマ・ベル(Germà Bel)の論文――題して、“The Coining of “Privatization” and Germany’s National Socialist Party”(「『民営化』の由来とドイツの国家社会主義党」) ――を踏まえて「民営化」という語の起源を辿ったこちらのエントリー〔拙訳はこちら〕に対して、ジェーン・ガルト(Jane Galt)をはじめとして方々から数多(あまた)の意見が寄せられた(ガルトが自分のサイトで開陳している意見はこちら。本ブログのコメント欄に寄せられた数々の意見はこちら)。 ベルの論文についてああだこうだと意見が交わされているうちに、ナチスによる民営化の具体的な内容(特徴)はどんなだったのかという点へと議論の焦点が移っていった。そんな中、ベル本人がコメント欄に
ソーシャルメディア利用と精神衛生の悪化の相関を見出してる研究は山ほどある.でも,de Mello, Cheung, & Inzlicht によるこの研究こそが,ぼくにとっては真打ち登場って感じだ: 世間の論議では,よく,Twitter(現 X)がユーザーと社会に有害な影響を引き起こすと言われている.本稿では,合衆国の Twitter ユーザーたちの代表的標本から252人の参加者を得て調査を行うことで,この研究課題に取り組む.我々は,一日5回の質問を7日間にわたって継続した(6,218回の観察).調査結果から,Twitter 利用が幸福度の悪化および政治的二極化・怒り・帰属感覚の増加に関連していることが明らかになった.効果量は,社交的なやりとりが幸福度にもたらすものに近い.こうした影響は,人口統計上の特徴〔年齢や居住地域や就業状況など〕や性格特性を考慮しても一貫していた.データから推測される
前回の記事では,すごく密集していながらもあんなに素敵な都市を日本がつくりだしている「秘伝のタレ」とぼくが見込んでいるものを解説した.カギを握っている要素はいくつかある.その一つは,素晴らしい公共交通システムだ.このシステムのおかげで,人々は都心部に暮らすことなくすごくかんたんに都心で働いたり買い物したりできている. 東京の人たちが実際にどこに住んでいるかに着目すると,このことが見てとれる.ジョナサン・ノーランが Citydensity.com ですてきな新ウェブツールを用意している.これを利用すると,いろんな都市の人口密度を――つまり住人たちが実際にどこに住んでいるかを――〔中心部からの〕距離ごとにあれこれと比較できる. さて,西洋のいろんな大都市と東京を比べてみると,都の中心部では東京が他より高密度になっているわけではないのがわかる.ところが,中心部から5キロ,10キロと離れていくと,東
マイケル・ペレルマン(Michael Perelman)が「民営化」(“privatization”)という語の起源について詳らか(つまびらか)にしている――ちなみに、ペレルマンと初めて出会ったのは、私がカリフォルニア州立大学チコ校で学部生として学んでいた時だから、もう何十年も前になる。ペレルマンから教えを受けたのだ――。 “The Nazi Heritage of Privatization” by Michael Perelman: 自由放任(レッセ・フェール)を是とする陣営において大人気なのが「民営化」だが、Journal of Economic Perspectives誌に掲載されたばかりの論文で、「民営化」という語の起源が探られている。「民営化」という語の生みの親は、ピーター・ドラッカー(Peter Drucker)・・・ではなく、ナチスというのが真相のようだ。ナチスが「民営化」
先週,7000語もの長文で,『技術革新と不平等の1000年史』書評を書いた.同書では,AI による自動化で中流階級が一掃されそうだと主張されている.この主張をうまく立証でいているとは,ぼくは思わない.ただ,AI によって中流階級が空洞化する可能性は除外できないのも事実だ.そういうことは起きるかもしれない. それでも,この点について希望をもつ理由はあると思ってる.生成 AI に関していろんな実験を経済学者たちがやりはじめるやいなや,信じられないほど一貫したパターンが見出されている:AI によって,高技能労働者と低技能労働者の生産性格差が狭まるというパターンだ.これは,去年の記事で指摘した: たとえば,Brynjolfsson, Li, & Raymond による新論文を見てみよう.この研究では,AI ツールが顧客サポート労働者の生産性におよぼす効果を計測している.(…)AI ツールは技能が高
ズキズキする問いだけど問わないといけない この何年ものあいだ,ぼくは政治的な右派の批判者たちから大学制度を擁護してきた.たとえば,2017年には,大学で行われている活動の一部にかかる税金を引き上げようという共和党の計画に対して,こんなことを書いた: アメリカの大学制度は,この国でいまも経済的な長所でありつづけている屈指の重要制度だ.製造業が中国に行ってしまっているなかでも,アメリカは高等教育で優勢を維持している.アメリカ各地の大学がもたらしている研究とテクノロジーの成果や大学院卒の高技能労働者たちは,知識産業がこの国に集積しつづけている重要な要因だ――3つだけ挙げれば,シリコンバレーや製薬業や石油サービス産業がより低い労働コスト目当てに国外に逃げ出さずにアメリカ国内にとどまっている理由の一つは,ああいう高技能労働者の存在にある.高等教育を劣化させれば,アメリカは最先端産業にとっての魅力が低
気候変動に取り組むうえでの大きな困難の一つは、世の中に悪い情報源が蔓延していて、悪質な情報もばらまかれていることだ。左派の気候変動活動家たち(気候変動問題について何かしようと自身の時間と労力を費やす傾向が最も強い人たち)は、「100社の企業が世界の排出量の70%を引き起こしている」とか「10%の富裕層が排出量の半分を占めている」といった馬鹿げた主張をする疑似左派的な情報を入手してしまいがちだ。それから右派。彼らは、以前だと気候変動を否定することにやっきだったけど、最近になってグリーンエネルギーへの巨大な不信感(金融関係者を除けば、グリーンエネルギーは「恐怖、不確実性、疑わしい」)を煽り立てている。こうしたとりまく事象から、クタクタになってしまうんだ。結果、多くの人たちが、気候変動への議論を避けがちになってるんだと思う。 こうした状況には、本当にイライラしてしまう。世の中には、本当にたくさん
新自由主義(neoliberalism)という語には、「19世紀の自由主義経済学」を左右の集団主義(集産主義)陣営――マルキスト(マルクス主義者)、ナチスシンパ――による攻撃から守ろうとしていたミーゼス(Ludwig von Mises)――限界革命の一翼を担ったオーストリア学派の中心人物――を侮蔑する意図が込められていた。そのために、あえて「ネオ」という接頭辞が冠されたのだ。 侮蔑的な意味を込めて「新自由主義」という語を使うのを広めた主要人物の一人が、オトマール・シュパン(Othmar Spann)だった。シュパンは、ウィーン大学におけるミーゼスの同僚でありライバルであり、ナチスの雛形であるオーストロファシズムを支えた代表的な知識人の一人だった。 シュパンは、1924年に改版された自著の教科書(経済学の教科書) に「新自由主義」を揶揄する章を新たに付け加えている。 つまりは、ミーゼスは、
ニュースを見てるアメリカ人のあいだでこれほど多くの悲観論が通説になりつつあるのは,どうしてだろう? ひとつには,2010年代後半の社会全体の動揺が挙げられる.それと,国が危機のさなかにあるという感覚をつくりだすことで利益を手に入れたがってるアウトサイダー政治派閥が〔そういう悲観的で危機を煽る〕メッセージを送り出していることも,理由の一端にあると思う.ただ,この十年~二十年ほどで,他でもなくニュースメディアがますます悲観的になってきたっていう事情もある. Binsbergen et al. による新しい論文では,テキストマイニング手法を使って新聞で用いられている言葉を分析している.彼らは,経済ニュースと経済以外のニュースの両方でプラスの感情とマイナスの感情をはかる尺度を構築した.短期的には,経済に関する感情は経済関係の出来事に対応している――景気後退やインフレにはマイナスの感情が対応するし,
例の馬鹿馬鹿しい統計ネタがまた出てきた 「誇張された危機論といえば,あれはどうなの? アメリカ人の大半が,『かつかつの生活をしている』ってやつ.」 そういう主張をしている人はたくさん見かけるね.たとえば,尊敬すべきバーニー・サンダースもこう言ってる: 不誠実な雇用主たちが意図的に従業員の分類を誤り,彼らが苦労して稼いだ賃金をむしりとろうとするのに歯止めをかける労働省の最終的な規制を私は称賛する.アメリカ人の 60% がかつかつの生活を送っているなかで,自分たちがむしり取られないように守る法が労働者には必要だ. さて,ぼくも,労働省による規則変更を支持してる.ただ,アメリカ人の大半が「かつかつの生活を送っている」というヨボヨボの枯れ木のような決まり文句には引退をしてもらわないといけない.経済統計に関するかぎり,これはデタラメにもほどがある話だ. ざっくり言うと,こういう話だ.LendingC
長年にわたって,アメリカ人は産婦死亡率の高さにふるえあがってきた.新年の投稿〔日本語版〕では,過去に比べて現在がどれだけよくなっているかを測る主な指標に産婦死亡率を使ったけれど,他の国々に比べてアメリカの産婦死亡率はずっとひどいことになっている.2022年にコモンウェルス財団が出したグラフを引用しよう: Source: Commonwealth Fund 近年になって,この数字はいっそうひどくなる一方だ. これもまた,アメリカは衰退しつつある国なんだっていう全体的な感覚を強めるばかりだった.産婦死亡率もまた,アメリカの平均寿命が短い上にいっそう短くなってきていることや,医療費が高すぎることなどなどと同種の問題だと思われていた.2010年代後半に強まっていた全般的な危機の感覚に寄与するさらなる要因だと多くの人たちが思っていた. ただ,ちょっとした問題があるんだけどね:近年の産婦死亡率が上がっ
本記事では、8つの計量手法を用いて、ユーロ圏、イギリス、アメリカについて、量的緩和と伝統的金融政策〔短期金利の操作〕を比較し、インフレへの影響を検証する。 パンデミック後の先進国全般でのインフレの高進について、量的緩和(QE)が重要な役割を果たしたと多くの論者が主張している。もし中央銀行が伝統的金融政策を採用していたなら、インフレの結果は異なっていたのだろうか? 本記事では、8つの計量手法を用いて、ユーロ圏、イギリス、アメリカについて、量的緩和と伝統的金融政策〔短期金利の操作〕を比較し、インフレへの影響を検証する。検証から、量的緩和は、伝統的金融政策よりもインフレへの強い影響をもっていることが示された。このことから、パンデミック時代に取られた量的緩和政策によって生じたインフレを目標値に戻すためには、伝統的金融政策での引き締め〔短期金利金利の引き上げ〕がどの程度まで必要なのかについての議論に
私たちは、少なくとも目下のところ、脱成長派が勝利していることを認めるべきなのかもしれない。そして、今私たちの目の前に広がるこの世界は、脱成長派が(恐らくは意図せずに)作り上げてしまったものであるということを。 15年前、私は「ソーシャル・イノベーション」の分野で研究活動をしていた。当時同僚たちの間で、社会の何が間違っていて、それをどう解決すべきかについて、非常に人気を博していたある世界観があった。 それは、政府も人々も経済成長が良いものだと考えるのを止めるべきであり、そうすれば環境の持続可能性や幸福といった重要なことをもっと重視する世界を築ける、という考え方だった。「グレート・トランジション」や「経済成長は不可能である」といったビジョンを肉付けしたニュー・エコノミクス財団などのシンクタンクによるレポートや、ベストセラーとなったティム・ジャクソンの『成長なき繁栄』に後押しされ、この考え方は2
民主主義国家が、こうした緊急、明白、十分に理にかなった要求に応えず、ナンセンスな財政健全化の原理を優先するなら、正当性を喪失してしまうのも不思議ではない。国家による自殺行為だ。 ドイツの政権与党SPD(ドイツ社会民主党)は、バイエルン州とヘッセン州の地方選挙で大敗した。この大敗は、今のドイツを覆っている雰囲気を示している。ドイツの各地域には固有の問題があるが、ヘッセン州とバイエルン州は、ドイツ連邦のジグソーパズルにおいて重要なピースであり、この2つの州で現首相のシュルツが率いる〔中道左派政党〕SPD(ドイツ社会民主党)は、〔極右政党〕AfD(ドイツための選択肢)の後塵を拝し、メンツが丸潰れとなった。 SPDは、ヘッセン州での健闘を見込んでいたのだが、AfDの18.4%に対して、15.1%という惨憺たる結果だった。金融の中心地フランクフルトを含むヘッセン州は、極右政治の長い伝統があるが、今回
今週、経済学者のロバート・ソローが99歳で亡くなった。彼はこの分野における巨人であり、彼によってマクロ経済学は無数の方法で再構築され、それを今の僕たちは当たり前のように受け入れている。ソローは多くの重要な分野に携わったんだけど、一番有名な貢献(ノーベル賞の受賞)は、経済成長についてのソロー・モデルだ。なので今回のエントリでは彼を追悼して、ソロー・モデルは、この数十年間――特に中国経済で起こったことを説明するのにどう役立つかについて少し話してみようと思う。 経済はなぜ成長し、成長はなぜ止まるか? この問題は、経済学で一番重要な問題なんじゃないかな。そして、ものすごく難しい問題でもある。成長というのはすごく複雑で、国によって経験は異なっている。比較は本当に難しい。ソロー・モデルは、ものすごくシンプルで、頭の良い中学生なら学ぶことができる。少しだけの変数・パラメーターしかない。こうした単純なモデ
大いに待望されていた「ソフトランディング」(軟着陸)が,ふつうなら一筋縄でいかないはずなのに,どうやらアメリカでは達成できそうだという点で,大半の評論家たちの見解は現時点で一致してる――雇用や賃金に痛手を与えずにインフレ率を下げるという難業が成し遂げられそうだ. USスチール買収の件について書こうと思ってたけれど,鉄鋼業の歴史について読むべきものが積み上がってしまってる.そこで,そっちは明日に回さなくちゃいけない.さしあたって,マクロ経済の話を手早くやるとしようか. 大いに待望されていた「ソフトランディング」(軟着陸)が,ふつうなら一筋縄でいかないはずなのに,どうやらアメリカでは達成できそうだという点で,大半の評論家たちの見解は現時点で一致してる――雇用や賃金に痛手を与えずにインフレ率を下げるという難業が成し遂げられそうだ.というか,ぼく個人が「ソフトランディング」と呼んでいただろう結末よ
およそ人間にふりかかる災厄のなかでも最悪の部類といえば,子供を失ってしまうことだ.歴史を振り返ってみると,15歳になる前に半数近くの子供たちが世界中で亡くなっていた.この割合は19世紀以降に着実に下がり続けていき,国連の人口部による予測では,2023年には世界全体での子供の死亡率は記録的な低さに達し,15歳になる前に死亡する子供はわずか 3.6パーセントにすぎない. これは,人類史でもいちばん低い数字だ.とはいえ,3.6パーセントということは今年亡くなってしまった子供たちは約 490万人いたわけだが――しかし,2016年というごく最近の死亡数から100万人も減少している. あるいは,極貧を考えてみよう.極貧も,記録的な低率に達している.国連の予測によれば,極貧状態におかれた人たちは世界全体の人間の 8パーセントをわずかに超える程度となっている. こうした数字はどれもおおまかなものではある.
「暗黒時代」という時代がヨーロッパにあったかどうかと聞かれたら,たいていの人は「あった」と答えるはずだ.「ローマ帝国と中世のあいだのいつ頃かでしょ.」 ところが,歴史家のなかには,その呼称は間違いだと主張している人たちもいる. 「暗黒時代」という時代がヨーロッパにあったかどうかと聞かれたら,たいていの人は「あった」と答えるはずだ.「ローマ帝国と中世のあいだのいつ頃かでしょ.」 ところが,歴史家のなかには,その呼称は間違いだと主張している人たちもいる.たとえば,ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの客員教員をつとめているエレナ・ジャネガによると,暗黒時代なんて,「そのようなものはない」.当該の時代の史料が欠落していることを指して暗黒といっているだけなんだそうだ: 歴史家が「暗黒時代」という用語を使っている時代はありますかと聞かれたら,ええ,ありますとも.史料の残存率について語るときに「暗黒
「景気後退」ならぬ「空気後退」(ヴァイブセッション)をめぐる論争で大きな係争点となっているのは,次の点だ――「アメリカの労働者たちにとって実質賃金は上がったのか下がったのか.」 「景気後退」ならぬ「空気後退」(ヴァイブセッション)をめぐる論争で大きな係争点となっているのは,次の点だ――「アメリカの労働者たちにとって実質賃金は上がったのか下がったのか.」 もしも実質賃金が上がったら,物価が上がっていても人々の購買力は上昇する.実質賃金が下がれば,大勢のアメリカ人が貧しくなる.一般に,保守派も左翼も(どちらもバイデンを嫌っている),こう主張している.「リベラルどもは賃金も上がっていると主張するが,賃金はマズイことになっている.」 Matt Bruenig がよいグラフを出して,実質賃金はマズイことになっていると主張している.グラフの元になっているのは調査データで,2017年から2023年まで雇
大勢が名を連ねている――有名どころを挙げておくと、ジョセフ・ヘンリック(Joseph Henrich)も共著者の一人に名を連ねている――こちらの論文で、異なる国の間の「文化差(文化的な隔たり)」の計測が試みられている。その結果の一部を以下に転載しておこう(さらに詳しい結果については、論文の25~27ページを参照)。数値が大きいほど、文化的な隔たりが大きいことを意味している。 アメリカとの「文化的な隔たり」 アルジェリア:0.138 オーストラリア:0.035 ブラジル:0.072 カナダ:0.026 中国:0.150 エクアドル:0.109 エジプト:0.234 エチオピア:0.130 ジョージア(旧グルジア):0.143 香港:0.090 インドネシア:0.178 日本:0.115 マレーシア:0.125 ナイジェリア:0.130 スイス:0.068 文化的な隔たりが大きいという意味で「
Photo by Breno Machado on Unsplash 台湾をめぐる戦争の可能性は現実味を帯びている.そして,アメリカは備えができていない. 「このあたりは,子供時代に見知っていたイングランドのまんまだった:線路沿いの野の花,赤いバス,青い警官たち――イングランドのなにもかもが,深い眠りにおちている.ときどき,不安を覚える――いつかこの眠りから私を覚ますものは,炸裂する爆弾の轟音なのではあるまいか.」――ジョージ・オーウェル,1938年 まるで,長い封印がすっかり解かれたかのようだ.2022年には,核兵器を持つ大国が隣国に侵攻して征服を試みる事態をぼくらは目の当たりにした.いまや,イランがイスラエルとの戦争に突入する脅しをかけている.アメリカは,その事態を抑止するために空母打撃群を同地域に派遣している.一方,アゼルバイジャンはアルメニアに侵攻する準備を整えつつあるおそれがある
リストというのは、文化の源なんですよ。アートや文芸の歴史の一部なんです。文化が求めているのは何だと思います? その答えは、無限を把握(理解)できるようにすることであり、秩序を打ち立てることです。常にそうというわけじゃないですけど、大抵はそうなんです。無限を前にした時、人間はどうするでしょう? 不可解なものをどうにかして理解しようとする時、人間はどうするでしょう? リストを作るんです。目録を作るんです。博物館を作るんです。百科事典や辞書を作るんです。ドン・ジョヴァンニが一体何人の女性と関係を持ったかを数え尽くさずにはいられないのが人間なんです。モーツァルトのためにオペラの台本を書いたロレンツォ・ダ・ポンテによると、その数は2063人だそうですけどね。実用的なリストも作られます。買い物リストだったり、 やることリストだったり、メニューだったり。そういう実用的なリストもまた、それはそれで文化の産
ミルトン・フリードマン(Milton Friedman)が登場するまでのアメリカの経済学界を振り返ると、貨幣(マネーサプライ)は(景気の変動に影響を及ぼす要因として)大して重要じゃないというのが第一線で活躍するマクロ経済学者の間でかなりの合意を得ていた見方だった。 フリードマンは、デビッド・メイゼルマン(David Meiselman)だとかアンナ・シュワルツ(Anna Schwartz)だとかとの共同研究を通じて、貨幣(マネーサプライ)はかなり重要だということを示すれっきとした証拠を大量に提示した。そして、大勢(おおぜい)がそのことに同意した。皆が皆、筋金入りのマネタリストに転向したわけではなかったにしても。 早くも1982年になると、マネタリストの勢いに陰りが見え始めた。マネーサプライの管理に重きを置く金融政策が言うほど功を奏していないことが判明し出したのだ。貨幣っててんで重要じゃない
〔訳注:シリーズ記事の「その1」、「その2」、「その3」、「その5」、「その6」〕 今回の記事では、前回までで議論したアイデアを用いて、予測(Projection)を立ててみたい。予測は、起こるであろう事態を予知(predict)しようとするものではないという点で、予言(forecast)ではない(むろん預言(prophecy)でもない)。予測(Projection)とは、特定の仮説や過程を前提した上で、何が起こるかを記述したものだ。通常は、異なる仮定をベースに、様々な予測を行う。そうすることで、異なる仮定がどのように異なる将来の起動をもたらすかについての複数のアイデアを得ることができる。 経験則としては、最も単純なモデルから始めるべきであるが、動的プロセスの最も重要な特徴を捉えているものであるべきだ。どの特徴に着目し、どの特徴を無視すべきか(少なくとも、最初の最も単純なバージョンの)選択
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