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ひとつの運命
酒井信雄 作 CRITICAL・MOMENT 編 1 小林秀雄はその文壇デビュー作「様々なる意匠」(一九二九年)を次... 酒井信雄 作 CRITICAL・MOMENT 編 1 小林秀雄はその文壇デビュー作「様々なる意匠」(一九二九年)を次のようにして閉じた。 ――私は、今日日本文壇のさまざまな意匠の、少なくとも重要と見える者の間は、散歩したと信ずる。私は、なにものかを求めようとしてこれらの意匠を軽蔑しようとしたのでは決してない。ただ一つの意匠をあんまり信用し過ぎない為に、寧ろあらゆる意匠を信用しようと努めたに過ぎない。 実に颯爽とした若々しい文章である。一読しただけでは、彼が、世に蔓延る上等とは言い難い「様々なる意匠」を歯牙にもかけず、己の道を勇ましく突き進まんとしているようにも見えるが、二七歳の若き小林が読者にそう見せているだけである。この文章の影には、何かを信じたいのに何ものも信じられず、もがき苦しみつつも、そんな自分の姿を周囲に見せまいというプライドから素直になれない、憔悴しきった若者の姿がある。 「批