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おみそ汁
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ジェイソン・ブレナン『アゲインスト・デモクラシー(上下)』(井上彰・小林卓人・辻悠佑・福島弦・福原正人・福家佑亮訳、勁草書房、2022年8月) 吉良貴之 法哲学 政治 私たちは一定の年齢に達すれば選挙権が与えられる。しかし、政治的に無知な人々があまりに多く投票するために民主主義の危機が起こっている。そこで次の選挙からは政治的知識について共通テストを実施し、90点以上を取った者だけが投票できるようにしよう。――この提案は受け入れがたいだろうか。もしそう思うとすれば、それはなぜだろうか。 本書は現代の分析政治哲学の第一人者ジェイソン・ブレナンによる、包括的な反民主主義理論の書である。その主張によれば、民主主義は人々が思いこんでいるほどよいものではまったくなく、むしろ人々を敵対させるなど、有害な面さえ多くあるという。その克服のためには、人々をできるだけ政治から遠ざけ、政治への参加は知的に厳選され
シリーズ「環境倫理学のフロンティア」では、環境倫理学の隣接分野の研究者との対話を行っています。今回は「風土論×環境倫理学」として、犬塚悠さんと対話を行います。犬塚さんは、シンガポール国立大学で生命科学を学んだ後、早稲田大学と東京大学で哲学の研究を行い、さらにフランス国立社会科学高等研究院で風土論の第一人者オギュスタン・ベルク教授のセミナーに参加されるというダイナミックな経歴の持ち主です。そして現在は名古屋工業大学で技術哲学・環境倫理学の研究をされています。隣接分野といいながら、環境倫理学の研究者でもあり、すでに昭和堂の『環境倫理学(3STEPシリーズ)』(http://www.showado-kyoto.jp/book/b515852.html)でご一緒している犬塚さんを今回お呼びしたのは、風土論と環境倫理学を中核におきながら、理系の観点と日本思想を押さえて研究されていることの独自性にあら
つい最近まで、社会保障の議論では「2025年問題」ということが現実の問題として頻繁にとりあげられた。これは「団塊の世代が75歳に到達する2022年から2025年にかけて、社会保障費が急増する」という話だ。 だが、2025年を翌年に控えた今(2024年)、このフレーズを見かける機会はほとんどない。「2025年にかけて社会保障費が急増する」という話が錯覚や思い込みでしかないことが、実際のデータから明らかになったからだ(なぜこのような錯覚が生じたのかという点については、2018年に公表された下記レポートをご覧ください。 「190兆円の社会保障費をどのようにとらえるか-「2025年問題」の虚像と実像」(ニッセイ基礎研)[https://www.nli-research.co.jp/files/topics/58888_ext_18_0.pdf?site=nli])。 このような経緯があるにもかかわ
「異次元の少子化対策」は、まさに異次元の政策である。年間で3.6兆円(概数)もの予算が新たに追加されるにもかかわらず、この対策によって出生率がどの程度上がるのかがわからないからだ。 最近、EBPM(合理的な根拠に基づく政策形成)ということがさかんに言われ、霞が関でもさまざまな取り組みが行われているが、肝心な話になると、なぜかその時々の風向きと雰囲気で政策が進められていってしまう。少子化と人口減少への対応は重要な政策課題であるが、「満蒙は日本の生命線」というノリで「産めよ、殖やせよ国のため」とやっても、首尾よく成果をあげることはできないだろう。 何事についても目的と手段の関係を明確にし、コスパ(費用対効果)をきちんと考えて現実的な対応をとることが必要だ。「これからの6~7年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス」と唱えていさえすれば数兆円規模の支出増が実行に移せるということであれ
メディア・スタディーズ——どこで何を学び、どのように活かすか? シノドス・オープンキャンパス04 / 石田佐恵子 情報 #シノドス・オープンキャンパス 融合するメディア経験 メディアは、あなた自身の暮らしに欠かせないものでしょうか? 「メディアって、テレビや新聞のこと?」とイメージした人は「最近はテレビも見ないし別になくても困らないかも……」と思ったかもしれません。スマートフォンやインターネットもメディアに含まれます、と聞いたら、多くの人が「それなら欠かせないです!」と答えるでしょう。ここでは、まずメディアの定義から話を始めましょう。 そもそも、メディア(Media)とは、「情報やメッセージを伝える手段や媒体」を意味する単語メディウム(Medium)の複数形です。もともと英語でも複数形で使われることが多く、日本語においてもメディアが多用されメディウムはあまり聞きません。メディアとは、言葉の
2023年末に刊行された金光秀和『技術の倫理への問い』は、技術倫理学と技術哲学の中身とその違いを知る上で非常に有益な本である。さらにはこの本の論述を通じて、技術(者)倫理と技術倫理学との違いを知ることもできる。 私の専門分野は環境倫理学だが、「環境倫理学とは何か」と聞かれるのと同じくらい、「環境哲学と環境倫理学はどう違うのか」と聞かれることが多い。さらに、「環境倫理と環境倫理「学」はどう違うのか」と聞いてくる人もいる。 環境倫理と環境倫理学の区別は曖昧な場合も多いのだが、基本的に、「倫理」が規範(べき)そのものであるのに対して、倫理学は倫理・規範(べき)に関する反省的考察といえる。端的に言えば、倫理学は「学問」である。経済学が経済そのものとは違って経済に関する学問であるのと同じことだ。 経済に強いことと経済学に強いことはまったく別であるのと同様に、倫理をわきまえることと倫理学に精通すること
はじめに――都市論とは何か? 都市論とは何か?――それが扱う中身とともに、そこに含まれるニュアンスを初学者に簡潔に伝えるのは、やや難しいところです。が、とりあえず、互いに近い分野である「都市社会学」と「都市論」の違いから考えてみましょう。都市社会学は、社会学のひとつの分野で、都市をフィールドとして生じる社会現象を実証的に扱う学問分野です。具体的なトピックとしては、コミュニティ、ネットワーク、階層、エスニシティ、等々があげられます。それに対して都市論は、社会学のみならず、地理学、都市計画、建築、都市史、現代思想、メディア論、美学、文学、等々、さまざまな分野の知見を参照しながら、都市という領域それ自体の現在的特性を批評的に扱う言説分野です。 ……と、いきなり辞書的に抽象的な話をしてもわかりにくいですよね。もう少し具体的な話をしましょう。たとえば「中華料理」というお題について、都市社会学と都市論
民主主義がうまくいかない理由――タイ政治では何が起きているのか? シノドス・オープンキャンパス02 / 外山文子 国際 #シノドス・オープンキャンパス はじめに 21世紀に入ってすでに20年以上もの年月が経過しました。しかし、未だに世界における民主主義や人権といった価値の実現までの道のりは険しい状況にあります。米ソ冷戦終結後の1990年代には、「民主主義」や「人権保護」といった欧米の価値が、世界中で実現されると大いに期待されていました。ところが2006年頃から世界的に「民主主義の後退」(recession of democracy)という現象が注目を集めるようになりました。近年では、米国のトランプ大統領、トルコのエルドアン大統領の強権政治、ロシアや中国といった権威主義国家の国際的な政治的影響力の拡大が注目を集めています。 日本と関係の深い東南アジア地域の国々も政治に問題を抱えています。タイ
本書の題名「セックスする権利」は、一見したところぎょっとさせる。たとえば、いわゆる「インセル」、本書の説明によれば「自分はセックスできてしかるべきだと思いこんでいて、その権利を奪っている女性たちに怒りを燃やす男性」(p. 102)に、権力が女性を「あてがう」必要はない。それはあまりにも当然のことだが、次のような場合を考えてみよう。子どもたちがおたがいにサンドイッチを分け合っている。しかし、ある子どもだけのけものにされ、その交換の輪から排除されている。そこでその子にサンドイッチを分け与える「義務」は誰にもないのだろうか。たとえ「ない」としても、それは「義務ではない」というだけでは不十分ではないか。 この類比は、セックスがサンドイッチと同様に分配されるべきだということを意味しない。それは別物だろう。では、どのように異なるのか。本書は「セックスをそれ自体として扱う方法」(p. 102)を見つけよ
ハマス・ヒズボラ「抵抗の枢軸」とは何か――中東における親イラン勢力の成り立ちと動向 溝渕正季 中東地域研究・国際安全保障論 国際 #安全保障をみるプリズム 21世紀において、イラン・イスラム共和国ほど、その戦略的目的のために国外の非国家武装勢力を活用することに成功した国家は他に例を見ない。レバノン、シリア、イラク、イエメン、そしてパレスチナ占領地で展開される紛争において、イランの支援を受けた勢力は、同国が国境を越えて政治的影響力を行使し、地域の敵対者たちに対して優位性を確保する上で大きな役割を果たしている。 1979年の革命以降、イランにとって最大の脅威は米国および地域におけるその同盟勢力(主にイスラエルとペルシャ湾岸諸国)であった。イランのアリー・ハメネイ最高指導者は2014年6月、支持者たちを前に「われわれは世界的な傲慢勢力による挑戦に直面している。率直に言おう。問題は米国が引き起こし
後から振り返ると、今年は時代の大きな転換点だったということになるかもしれない。今年は「〇〇年ぶり」という30年単位での変化を伝えるニュースが数多くあった。消費者物価指数は41年ぶりの上昇率、賃上げ率は31年ぶりの高水準、日経平均株価は33年ぶりの高値、というように。 過去30年ほどを振り返ると、西暦の下1ケタが「3」の年にはいずれも大きな変化が生じている。今から10年前、2013年はアベノミクスと異次元緩和が始まった年だ。その10年前、2003年には5月に「りそなショック」(りそな銀行に対する公的資金の注入が決定)があり、4月25日にバブル崩壊後の最安値となった日経平均株価は、これを機に上昇に転じた。その後、同年11月の足利銀行の一時国有化を経て、日本の金融システムはひとまず安定性を取り戻し、日本経済は不良債権の足枷からようやく自由になることができた。 そこからさらに10年前、1993年に
わたしたちが買うときにおこなっていること――なぜ消費は社会学的に研究されるべきなのか? シノドス・オープンキャンパス01 / 貞包英之 社会 #シノドス・オープンキャンパス 消費の拡大と拡散 消費を通して社会を考えるために消費を社会学的に分析する、それがわたしの研究の目標です。 ではなぜ消費を通して、社会を考えなければならないのでしょうか。それに対する答えは、まずは簡単にみえます。わたしたちは、日々消費をくりかえして生きています。食料や電気や娯楽など、何かを買わなければ生活できず、いくらそれが嫌だと思っても仕方がありません。自給自足でどこまで生活できるか考えてみればよいでしょう。その場合、暮らしはかなり小規模なものに押し込められます。たとえばわたしは歌をうまく歌えないし、おいしいパンも焼けない。しかし誰かにそれをやってもらい、その成果を商品として買うことで、豊かな生活を営むことができるので
このところ、マイナス金利の解除をめぐる議論が活発に行われている。マイナス金利を続けながら、円安の行き過ぎを懸念して為替介入をするというのは平仄が合わないから、日銀当座預金に対するマイナスの付利を適切な形で見直すというのはおかしなことではない。 もっとも、「急いては事を仕損ずる」という場合もある。2000年8月に行われたゼロ金利政策の解除がその典型例だ。物価の情勢がまだ十分に見通せない中、デフレ懸念の払拭が展望できるようになったとしてゼロ金利を解除したものの、ITバブル崩壊の影響もあって景気が悪化。物価下落の圧力が高まったとして2001年2月に公定歩合の引き下げが行われ、3月には量的緩和という形で事実上のゼロ金利政策に復帰せざるを得なくなった。 この点からは、景気と物価の状況を慎重に見極めて、誤りのない判断をしていくことが必要になる。海外景気に下振れのリスクがあることを踏まえれば、なおさらだ
性暴力と闘った彼女はイランの人権問題を国際社会に晒し、闘う女性の象徴となった 鐙麻樹 北欧・国際比較文化ジャーナリスト、写真家 文化 2014年、イランで処刑されたある女性の名前が世界中でニュースとなって駆け巡った。当時19歳だったレイハネ・ジャバリさんは元情報省職員のイラン人男性に性暴力を受け、正当防衛で刺したと主張していた。適切な捜査は行われないまま、拷問を受け独房へと入れられた。家族や支援者たちは彼女の死刑を防ぐために、国際社会にイランで何が起こっているかを呼び掛けながら、必死の抵抗活動を続けた。しかし、その努力もむなしく、ジャバリさんの命は絶たれた。ドキュメンタリー映画『Seven Winters in Tehran』(2023/テヘランでの7つの冬)は、事件が起きて死刑執行がされるまでの母親と家族たちの証言を基とした7年間の記録だ。 Photo: Seven Winters in
『1%の風景』が映し出すもの ―― 命を産み、育てようとする女性のそばに信頼できる誰かがいるということ 白井千晶×吉田夕日 文化 妊娠がわかり、どこで出産しようかを考える時、当然のように病院やクリニックの情報を集める人は多いのではないでしょうか。現代の日本では医療施設での出産が99%にのぼります。残りの1%は、助産所や自宅での出産。映画『1%の風景』は、そうした1%の選択をした女性たちと、伴走者である助産師を見つめたドキュメンタリーです。助産所のお産と、病院のお産は何が違うのか? 女性が自分で選択することの意義とは? 自身も第二子を助産所で出産した吉田夕日監督と、社会学研究者でリプロダクションを研究している白井千晶さん(静岡大学人文社会科学部教授)が語り合いました。 ©︎2023 SUNSET FILMS 「どうして病院で産むの?」と問われて ――吉田監督が助産所で出産し、今回の映画を撮り
シリーズ「環境倫理学のフロンティア」では、環境倫理学の隣接分野の研究者との対話を行っています。今回は「環境思想×環境倫理学」として、環境思想研究者の木村美里さんと対話を行います。木村さんは、19世紀末の英国でナショナル・トラストを創設したオクタヴィア・ヒルの研究を行っています。ナショナル・トラストは、相続や開発などで失われようとしている自然の景勝地や歴史的建物を、所有者からの寄贈や買取などによって取得することで後世に残していく取り組みを指します。この取り組みは近代の環境運動のなかで最も成功したものの一つといえるでしょう。今回の対話では、イギリスのナショナル・トラストの成立の背景に、ヒルによる住宅改良などのプロジェクトがあったことに注目します。ナショナル・トラストは19世紀末の英国の社会改革の一環として理解することができるのです。 「環境思想」の定義について 吉永 木村さんのご専門は「環境思
今年の夏の観光地の光景をみて 今年の夏、ヨーロッパの観光地には大量の観光客が押し寄せ、その様子が繰り返しニュースになりました。インフレや人手不足で旅行にかかる費用が上がり、また観測史上最高の暑さを記録するなど、今年は観光に不利な条件が揃っていました。それにもかかわらず、コロナ危機直前の2019年とほぼ同じ水準、あるいはそれを上回る数の観光客が、多くの観光地を訪れました。 それでは、観光地はどこも人で溢れかえる時代が、ふたたびやってきたのでしょうか。コロナ禍の数年間は、観光になにも変化をもたらさなかったのでしょうか。 本稿では、このような素朴な疑問を出発点に、おもにドイツ語圏での観光事情や変化をふりかえります。コロナ規制が解除され、人々がふたたび観光をはじめるようになったいま、今後の観光のあり方は世界中で関心を集めているテーマです。小稿が、日本での観光に関する議論においても、なんらかの新しい
科学者は政策形成にどう貢献しているのか?――公衆衛生における「科学-政策インターフェイス」について 鈴木基 感染症疫学、国際保健学 科学 はじめに 「科学-政策インターフェイス(science-policy interface)」という言葉があります。科学技術の急速な発展に伴って社会的課題は複雑化しており、何が問題なのかを正確に理解して解決策を探るには、科学者の協力が不可欠です。一方で、様々な利害関係を調整することが求められる政策形成の過程においては、科学的に正しい見解が必ずしも社会の最適解であるとは限りません。科学-政策インターフェイスとは、政策過程で科学者と政治家や行政官の活動が交わる境界域のことであり、新型コロナウイルス感染症の対策を巡って専門家と政府が協力と対立を繰り広げたのも、まさにそのような場所だったと言えるでしょう。 前回の論稿(「公衆衛生政策における介入の基準設定について」
1953年に、日本政府はパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金提供を決定した。以来、70年にわたって日本はパレスチナ難民への支援を続けている。なぜ戦後間もない日本が、遠く離れた中東で発生した難民支援に乗り出したのか――、この問いを「宿題」として私に投げかけてきたのは、UNRWA保健局長の清田明宏医師だった。WhatsAppでの軽妙な誘いに乗った私は、外務省外交史料館を訪ねることになる。そこで僅かながら目にした当時の資料から、戦後日本の国際社会への復帰の通過点に、UNRWAへの資金拠出があった可能性が浮かび上がってきた。 国連からのアプローチと日本政府の対応 UNRWAについてまとめられた最も古いファイルは、『国際連合総会補助機関関係雑件:パレスタイン難民救済機関関係』である。このファイルには、1952年から59年にかけての外交資料が綴じられていた。そのなかで、UNRWAへの拠出を
序論とアプローチ 第一次世界大戦後の1920年、戦争防止のための初の国際機構として、国際連盟が設立された。現在の国際連合の前身であるこの国際連盟において、はじめて戦争が国際法上で規制され、集団安全保障〔注1〕が導入されることとなった。戦争防止システムとしての集団安全保障の考えは、イギリスの研究グループであるブライス・グループが1914-5年にかけて作成した国際連盟草案「戦争回避のための提案」において、最初に示されたものである。この「提案」が基礎となって、英米を中心とした国際連盟運動が展開したのみならず、1918年には英外務省の連盟研究報告書が作成され、さらに戦後のパリ講和会議において国際連盟規約が議論されることとなった。〔注2〕 これまでの大部分の研究において、ブライス・グループらの国際連盟推進派は、国際関係の現実を知らない理想主義者とみなされてきた。〔注3〕一方で、グループの「提案」に注
「シルバー・デモクラシー(シルバー民主主義)」という言葉が人口に膾炙してから久しい。その象徴として、国政選挙での若年層の低投票率などが取り上げられる。これは選挙報道で各党や各党候補者を平等に扱えず、かといって政策検証などは関心をひかないため、中高年視聴者や読者のための恰好のネタでもあるからだ。ただ、その効果は無視できないと見え、メディア関係者のみならず、大学生などと会話していると、日本の民主主義の問題点として、必ずといっていいほどなされる主張だ。なお、先の2021年衆院選で60代の投票率は71%、対して20代の投票率は36%だった。 そもそも「シルバー・デモクラシー」は何を意味するのか――もっとも早くこの言葉を使ったのは、著名な政治学者だった内田満が1986年に著した『シルバー・デモクラシー 高齢社会の政治学』(有斐閣)だと思われる。ただ、これは長寿社会を迎える日本で、高齢者がいかに政治参
放射線から人や環境を護るため、国際機関や各国は放射性物質や放射線被ばく線量を規制しています。放射性物質の「トリチウム」(https://synodos.jp/fukushima_report/21554)も、飲料水や排水中の濃度が規制されています。 トリチウム濃度の規制値の根拠は、公衆の年間被ばく線量を1ミリシーベルトとするICRP(国際放射線防護委員会)の勧告です。ただし、機関や国ごとに、具体的なトリチウム濃度の規制値を決める際の考え方が異なるため、実際の規制値も異なります。 オーストラリアは、トリチウムの飲料水中の濃度を7万6,103ベクレル/リットルとしています。これは、国際機関や各国が設ける規制値のうち、もっとも高いものです。「この水を1年間毎日2リットル飲んだ場合の被ばく線量を1ミリシーベルトとする」という想定に基づいて単純計算した値です。 WHO(世界保健機関)は、トリチウムの
2017年3⽉、物理学の研究、そして福島において、数々の功績を残した早野⿓五・東京⼤学教授が退官を迎える。早野教授の最終講義が⾏われた3⽉15⽇⼣刻、東京⼤学の⼩柴ホールには、⼤勢の⼈々が集った。福島の⼈々は「物理学者・早野⿓五」を、物理学界の⼈々は「福島に⼒を注ぐ早野先⽣」を、それぞれ初めて⾒ることになった。講義後のカクテルパーティでは、福島から酒樽を担いできた⼈と、世界的な物理学者とが、和気藹々と盃を交わす光景が⾒られた。 CERNで20年、福島で6年というタイトルでお話をいたします。 たまたま私の⼤学の居室は311号室です。この数字には何か因縁を感じます。⼤勢の⽅々、恩師、学⽣、同僚、そして本⽇は⼥性の⽐率が多い。物理の最終講義でこれほど⼥性が多いことはありません。 今日は「数式を使うな」と多くの⽅に⾔われました。けれども、物理学の講義を聴くときに、これだけは知っていていただきたいと
原発事故後、福島県では原発事故当時18歳未満だった全県民を対象に甲状腺検査が実施されています。甲状腺検査は、原発事故による放射線の甲状腺がん発生への影響の有無を調べる医学調査です。調査の結果は福島県「県民健康調査」検討委員会の下部組織甲状腺検査評価部会が解析を担当し、現在5回目まで実施されている甲状腺検査の1回目~4回目の結果をもとに、2023年7月28日に3回目の部会まとめを公表しました。部会長は医療法人 保内郷厚生会保内郷メディカルクリニック(茨城県)の鈴木元氏です。 ポイントは以下の通り。 ①2回目よりも明確に放射線被ばく線量と見つかった甲状腺がんとの関連がないことが分かった。 ②今後も見つかる甲状腺がんと放射線被ばく線量との関連は見られない可能性が高い。 まとめ案は「今回の解析ではより明確に被ばく線量の増加に応じて(甲状腺がんの)発見率が上昇するといった一貫した関係(線量・効果関係
ツイッターにコミュニティノートが追加された。コミュニティノートとは誤情報を修正するための工夫であり、その特徴は専門家や運営者が行うのではなく、ツイッターユーザ自らが行う点にある。この機能には賛否両論があり、役立っているという評もあれば偏りがあるという批判も見られる。今回、ユーザへのアンケート調査でこの機能の実態と評価を調べたので報告する。結論から言うと、多少の偏りはあるものの、コミュニティノートをおおむね肯定的に評価する人が多い。ここまでのところコミュニティノートは人々の支持を得ており、成功しているようである。 1.コミュニティノートとは コミュニティノートを知らない人もいると思われるので最初に簡単に説明する。コミュニティノートとは、ツイートに対して他のユーザがつける注釈である。図1で「閲覧したユーザが背景情報を追加しました」とあるのがそれである。 図1(a)は「マイナンバーカード本人希望
精神的に不安定な若者が急増 ヨーロッパでは、精神的に不安定になったり、うつ病や不安障害、強迫性障害などの精神疾患をかかえる若者の数が、ここ数年、急増しています。コロナ危機以前から増加傾向にありましたが、コロナ危機下で加速化し、コロナ規制の全面撤廃以後、現在まで、状況はほとんど改善されていません。 たとえばスイスでは、2021年、10歳から24歳の年齢の人の間で精神疾患が、前年に比べ17%増加し、入院理由のトップとなりました (Luchetta, Mentale, 2022)。11歳から18歳の女性の精神疾患関連の診療費用は、2017年から2021年で二割増え、2021年のこの年齢層の女性の全医療コストの20%を占めました(De Carli, So verbreitet, 2023)。国内最大規模の若者支援団体 Pro Juventuteでは、自殺念慮がある若者を救急医療につなげる措置を行っ
1.憲法の婚姻条項と「同性婚導入」・「パートナーシップ導入」 近年欧米諸国を中心に、同性婚を導入する傾向がみられます。我が国においても、各地方自治体において、種々のパートナーシップ制度が認められるなど、これにあわせる動きが認められます。ただ現在(2023年6月)においても法律レベルにおいて、①同性婚の導入(現行の婚姻を同性同士でも締結可能とすること)も、②婚姻類似のパートナーシップの設立も、なお達成されていません。 では、この①または②を可能とする法律が可決された場合、これは日本国憲法の観点から、どのように評価されるでしょうか(以下、法律によって同性婚制度が導入されることを「同性婚導入」、婚姻類似のパートナーシップ制度が法律によって導入されることを「パートナーシップ導入」とします)。 条文を確認しますと、いわゆる家族・婚姻条項といわれる日本国憲法24条1項(以下、日本国憲法は憲法とします)
2023年7月7日、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシ事務局長が、東京都千代田区の日本プレスセンタービルで記者会見を開きました。IAEAは7月4日に、東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水(以下処理水)海洋放出に関する包括報告書を公表し、放出計画は「国際的な安全基準に整合的である」との評価結果を示しました。7日の記者会見では、報告書の意義などについて国内外のメディアの質問に答えました。 グロッシ 7月4日に、東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出に関する包括報告書を公表しました。5日には福島県を訪問させていただきました。11人の首長や漁協の方と、直接お話しさせていただいたことは、私にとってとても良い経験となりました。彼らは処理水海洋放出で、最初に影響を受ける方々ですから。 加えて、福島第一原発も視察しました。去年も訪れましたが、処理水希釈放出設備の建設
1990年の「1.57ショック」以来、少子化の問題は克服すべき重要な政策課題とされてきた。出生率は2000年代半ばに下げ止まり、反転上昇が続いてきたが、このところ再び低下基調となっている。こうした中、出生数はついに80万人を割り込んで、さらに減少が続くものと見込まれている。「日本が縮んでいく」ということに対する漠然とした不安は、多くの人に共有されているものであろう。「異次元の少子化対策」が注目されるのは、このためだ。 もっとも、気合いを入れれば出生率が上がる、というほど話は簡単ではない。「希望出生率1.8」を目指した安倍内閣の取り組みなどによって、子育て支援をはじめとする家族関係社会支出は大幅に増加し、待機児童の問題も相当に緩和されたが(もちろん課題も多く残されている)、そうした中にあっても出生率はむしろ低下に転じたからだ(新型コロナの影響で婚姻数が減ったことの影響がしばしば強調されるが、
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