30年前、初めてMI6本部に足を踏み入れたキャシーの不安は、もっとシンプルだった。 「私に任務が務まるでしょうか?」 応対した面接官は「大丈夫です。銃を撃つ必要はありません。ヘリから飛び降りることもありません。ジェームズ・ボンドのような仕事じゃないですから」と言った。だが結局、キャシーは戦地に派遣され、軍と行動を共にし、自衛のために火器を扱う訓練を受けることになった。この2つを話す彼女には、何の矛盾もないようだった。 彼女がMI6入りした道のりは、ごく普通なものだった。文学の博士課程を終えたばかりの20代のキャシーは、外務・英連邦省の大卒研修生コースに2回目の応募をするところだった。しかし「もうひとつの海外勤務の機会」への面接を勧める1通の手紙がきっかけで、スパイになる道に転じた。ずっと大使志望だった彼女は、同じような外務関連機関で見知らぬ人たちと絆を作ることに興味を惹かれたのだ。 キャシ