→紀伊國屋書店で購入 生者の務め 本書は、題名が端的に示すように、著者の母親佐野シズコを描いたものだ。母親への積年の恨み辛み、無念と自己嫌悪など一切合財の想いを宿すシコリが、シズコの認知症と死を経て氷解するまでを描いたのが、『シズコさん』のあらすじということになる。 豪放かつ繊細な感受性で記された母親との悪縁の内訳は、同時に、戦前戦後の時代背景を生々しく浮き彫りにもしている。感性に素直な筆致は、佐野洋子のエッセイすべてに通じる特徴で、荒ぶる時は小さなスサノオの如し。露悪的にすら映る乱暴狼藉が四方八方に吐き出されはするものの、底意地の悪さがないものだから愛嬌になる。正直なことは「裸の王様」の少年の如し。けれども、著者が指さすのは、心の内を晒して怖じけない佐野洋子自身である。心の裸身を呆気ないほど無防備に見せてしまう危なっかしさは、それ以上の痛みや剥奪を先制防御する煙幕のようですらある。 本書