1583年9月、イタリア東北部、当時はヴェネツィア共和国本土属領のフリウリ地方において、ひとりの粉挽屋が教皇庁により告訴された。名をドメニコ・スカンデッラといい、人びとからはメノッキオと呼ばれていた。職業柄、白のチョッキ、白のマント、白麻の帽子をいつも身に着け、そして裁判の席にあらわれるのもこの白ずくめの服装だった。 「各人はその職業に従って働く。あるものは身体を動かし骨折って働き、あるものは馬鍬で耕す、そして私はといえば神を冒瀆するのが仕事だ」 「私が考え信じるところでは、すべてはカオスである、すなわち土、空気、水、火のすべてが渾然一体となったものである。この全体は次第に塊になっていった。ちょうど牛乳からチーズができるように。そしてチーズの塊からうじ虫が湧き出るように天使たちが出現したのだ」 かく語り、二度にわたる裁判を経て焚刑に処せられたメノッキオとは何者か。異端審問記録ほか埋もれた史