暗闇で足元照らす明かり 今年の5月1日のことだった。東京都国立市の一橋大学で「3・11を越えて」というタイトルの鼎談(ていだん)が行われた。東日本大震災から約50日が過ぎていた。被災地を歩きはじめて、自らがあまりにも無知で無力であることに打ちのめされていた私は、会場で聞いた言葉の数々に、ほんの少しだけ勇気をもらった。 「これからどう進めばいいのか」という問いかけに、たぶん正解はない。満点の解答は永遠に得られない。だけど考え続けることは、きっと無意味ではない。集まった3人が交わし合う言葉は、暗闇で足元を照らしてくれる小さな明かりのような気がした。 その鼎談を活字化したのが本書だ。改めて読むと、時の流れが意識される。どんな文書における「現在」も、読む側には「過去」だけれど、とくに震災後、言葉や思想は厳しい選別に直面した。さまざまな言説が一瞬で無力化された。もちろん一方には、重みを増していく視点