※途中からネタバレがあるので、気になる人は引き返してください。 小説 すずめの戸締まり (角川文庫) 作者:新海 誠KADOKAWAAmazon 雨降る日曜日、すずめの戸締りを観に行くことになった。事前に知っていたのは新海誠が監督だということ、それだけだった。 ぜんぶ見終わって、とても良い映画だったけれども自分のストライクゾーンとは違うと感じた。つまんなかったわけでも、感情的に癇に障ったわけでもない。まったく楽しい二時間だった。新海誠監督はこんな作品を日本社会に押し出せる/押し出すようになったのですねと驚いた。尺のテンポもキャラクターも良かった。創作のきわみにある人とその制作陣は、こんな創作ができちゃうのかと痺れまくった。舌を巻くしかない。 前作『天気の子』や前々作『君の名は』に引き続いて、この作品の舞台や出来事にああだこうだ言う人が出てくると予測される。制作側としては、そのように批判する
2006年に2人のアニメ監督が、SF作家の筒井康隆作品を原作にした2本のアニメ映画を作った。1本は今敏監督の『パプリカ』。世界で賞賛されながらも今監督は2010年8月24日に死去。映画としては遺作になってしまった。もう1本は、細田守監督の『時をかける少女』。東映アニメーションで『おジャ魔女どれみドッカ~ン!』や『明日のナージャ』の演出を手がけ、『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000年)、『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』(2005年)を監督した後、独立して名作ジュブナイルSFの映画化に挑んで大評判を得た。ここから細田監督の大躍進が始まり、2018年の『未来のミライ』で第46回アニー賞の長編インディペンデント作品賞を獲得するに至る。今監督が没し、宮崎駿監督が長編アニメから退いた現在、世界が期待を寄せる日本のアニメ監督の最前線に立つ細
ネタバレを望まぬ者、読むべからず 『天気の子』を拝見して思うところを書きたい。 その前に、肝心要のお断りを述べたい。 これは、とても素晴らしい作品であると感じ、だからこそ色々と想像力を刺激されているがゆえに書かれた文章であって、ディスりたい気持ちなどこれっぽっちもないということをご了承頂きたい。 たとえば漫画家やイラストレーターが、とても素敵な他社のキャラクターと遭遇した結果、「自分だったらこう描く」などと、仕事しろよ、と誰もが言いたくなるであろう絵をほいほい無償で公開することがある。 以下の文章はそれと同様の気分で書いてあるのであり、特段、誰かにもの申したい気分などこれっぽっちもないことをお断りしたい。 というわけで。 『ハウス・ジャック・ビルド』が大変マーベラスであり、『スパイダーマン・ファー・フロム・ホーム』がエキサイティングであり、『トイ・ストーリー4』がエモーショナルであり、そそ
脚本とは、作品の設計図である。設計図が狂っていたらどんな建物も建たないのと同じで、しっかりした脚本がなければ、映画もアニメも作れない。映画学校時代、「良い脚本を悪い映画にすることはできる、しかし悪い脚本を良い映画にはできない」と口酸っぱく講師に言われたことを覚えている。 今、日本のアニメ界で最も信頼できる脚本家は誰か、と問われれば筆者は「吉田玲子」と即答する。花田十輝も横手美智子も小林靖子も岡田麿里も素晴らしいが、設計図としての脚本の安定感が図抜けており、ジャンルを問わず高水準の作品を産み出し続けている。 『映画 聲の形』『リズと青い鳥』などの山田尚子作品、青春映画『夜明け告げるルーのうた』、児童文学の映画化『若おかみは小学生!』や『かいけつゾロリ ZZ(ダブルゼット)のひみつ』、戦車や戦艦のバトルもの『ガールズ&パンツァー』と『ハイスクール・フリート』、女性に人気のスポーツもの『弱虫ペダ
若おかみは小学生の大絶賛が続いています! 高く評価されるべき作品だから、嬉しいは嬉しいね カエルくん(以下カエル) 「記事においては若干含みはあったものの、作品自体はとてもいいという評価だったしね」 主 「今回は似ていると多くで語られている花咲くいろはとの比較と、そして偶然ながら現代を代表する女性アニメ脚本家の吉田玲子と岡田麿里の比較ができるので、そちらも含めて考えていく記事になります」 カエル「こうやって繋がっていくんだね……やっぱり話題作は見ておくべきだ」 主「ただぼーっとアニメを見ているだけでも、蓄積って大事! 早速記事を始めます!」 吉田玲子について 吉田玲子の近年のフィルモグラフィー 吉田玲子の作品の方向性 穏やかな現実を描く場合 過酷な現実を描く場合 岡田麿里について 岡田麿里のフィルモグラフィー 岡田麿里の脚本に多い家族の描き方 以下『若おかみは小学生』『花咲くいろは』『かい
客観評価:★★★★★5つ (僕的主観:★★★★★5つ) キマリこと玉木マリの主人公の視点から物語は始まる。南極を目指す少女・小淵沢報瀬(こぶちざわしらせ)と出会うことにより、何となく退屈な日常の、どこかへ行きたいという気持ちに、具体性がが生まれ、そして、「ここではないどこか」という否定形ではなくて、「そこ=南極」というはっきりとした具体的な場所に、キマリたちは突き進んでいく。 とてもコンパクトでまとまっている傑作なので、ぜひとも「いま(2018年)」に見たい作品なので、頑張れる人は、ぜひとも見ることをお勧めします。あとで対比で説明する『ゆるキャン△』と比べてとても見やすいと思います。同じ日常系・無菌系の特徴である少女がたいてい4人いて、その関係性のみで話が展開するという作品は、通常の意味ではドラマトゥルギーが弱いので、ある種の文脈や、関係性のみにフレームアップすることに安らぎを覚えるという
さて、2018年冬アニメ「宇宙よりも遠い場所」が最終回を迎えて1週間と少し経った。あくまで私見ではあるが、まさに何年かに一度レベルの傑作と呼ぶのにふさわしい作品だったと思う。自分が大好きな作品を引き合いに出すのであれば、たとえば「四月は君の嘘」のように感情を激しく揺さぶられ、「SHIROBAKO」のようにオリジナル作品でありながら笑いあり涙ありでストーリーに引き込まれ、そして「魔法少女まどか☆マギカ」のように1クールという枠を極限まで利用し尽くした作品だ、と言ってもいいのではないかと考えている。これは新しいマスターピースが、南極という想像だにしなかった舞台から生まれてきたのかも知れない。 出典:「宇宙よりも遠い場所」OP ということで、書こうと思えばいくらでも書けてしまうような気がするのだが、ここでは、とりあえず思いついた3つの視点から、この「宇宙よりも遠い場所」という作品について語ってみ
結婚しました。相手は声優の浅野真澄さんです。詳細は先程、彼女がラジオ『週刊マネーランド』で語った通りです。 僕の方は今週の水曜日から少年サンデーで新連載『トニカクカワイイ』が始まります。彼女に応援されながら、二人でしっかりと歩んでいきますので、今後ともよろしくお願いします。— 畑健二郎 (@hatakenjiro) 2018年2月12日 「ハヤテのごとく!」という執事ギャグのラブコメディ漫画で一発あてた少年サンデーの看板漫画家のお一人です。師匠の久米田康治の予言通りに声優と結ばれました。めでたいことです。お相手の浅野真澄さんは技巧派声優として著名で、声優以外のフィールドでも多彩な才能で輝く素敵な人です。 10年前「ハヤテのごとく!」に嵌まっていた。 ハヤテのごとく! 1 (少年サンデーコミックス) 作者: 畑健二郎出版社/メーカー: 小学館発売日: 2005/02/18メディア: コミック
お若い方にはピンと来ないかも知れませんが、あっちこっちに不思議な小国が乱立していた時期が過去には実際にありました。 「ふるさと創生」の名の下に、地方都市に助成金が支給され、みんなが使い途に頭を悩ませた時代もありました。 時は流れ。 ミニ独立国に限らず、行政主導で田舎町に作られたハコものには、できた当初こそ物珍しさで人が集まりますが、やがて交通の便の悪さと周辺人口の少なさから客足が途絶えます。 数年で閑古鳥が鳴いていたり、廃墟化する例も珍しくありません。 この「ミニ独立国」を始め、シャッター商店街や限界集落など、現実の地方都市が直面している問題がこの物語には登場します。 これらの地方が抱える問題を、由乃と4人の大臣たちの悩みや成長を絡めながら、物語は進みます。 なぜなのか。 地方の過疎化と、由乃たちの抱える悩みは、実は密接に関連しているからです。 地方が過疎化していく一番の原因は、若者たちが
新海誠はアニメ界の「鬼っ子」的存在 新海誠監督の新作アニメーション映画『君の名は。』が、記録的な大ヒットを続けています。公開10日間ですでに興行収入が38億円を突破したといいますから、これはもはや2010年代のアニメ界におけるひとつの「事件」といってよいでしょう。今年の夏はさまざまな意味で「平成の終わり」を実感させられるニュースが相次ぎましたが、まさにアニメ界においても、名実ともにいよいよ「ポストジブリ」の新時代が到来したことを感じさせるできごとです。 しかも注目すべきは、今回のヒットが、内容的にもスタジオジブリやスタジオ地図(細田守)のように、老若男女、幅広い層から支持されているというよりは、10~20代の若者世代、とりわけ女性層に特化して受けているらしいという点です。この『君の名は。』をめぐる現在の盛りあがりには、ゼロ年代から新海作品を観続けてきたアラサーのいち観客として、いろいろと感
評価:★★★★4つ (僕的主観:★★★★☆4つ半) 視聴終了後、集約して感じたのは、「スタジオジブリは普通のアニメ制作会社になろうとしているんだな」ということでした。 これは悪い意味ではありません。宮崎駿という個人の妄想が時代の文脈を超えてエンターテイメントとして商売として成立してしまう、ある種、化け物的なクリーチーなアニメ制作会社であったスタジオジブリが、まともな制作「集団」になろうとしているんだな、という感じです。 スタジオジブリを語る文脈には、常に「宮崎駿の後継者はできるのか?」という問題提起がいつも存在していました。けれども、さすがに御大の年齢と『もののけ姫』以降のスタジオジブリの作品を見ていれば、宮崎駿という希代のクリエイターは、後にも先にも生まれない「天才」だったんだ、ということが、我々もよくわかってきたんだと思います。時代性を無視してムーブメントを起こす力があり、この分裂する
実はとっくの昔に『くどわふたー』クリアしててレビューだけ書けてないとか,ブックレビューも1冊たまってるとか,『狼と香辛料』の最新刊も読み終わったのでシリーズ総括したいとか,EU3HttTも二周したのでこれも所感をまとめておきたいとか,魁皇の引退記事も絶対に書かねばならないとか,書くネタは腐るほどあるのだが,一つも終わってないのは仕事が忙しかったからである。こればっかりはどうにもならない。はてブからの拾い物ばかりで飽きるかもしれないが,7月中はご勘弁願いたい。 ・魔法少女まどか☆マギカがつまらなかった理由(増田) → まどマギが1クールという時間の制約により,既存のコンテクストに大きく乗っかっているため,単体では説明不足の部分が多いこと。また設定が人工的でシナリオが設定に優越している点などは認められるし,ここから批判することは可能だと思う。(逆にその人工性の高さは脚本の技巧的うまさを示してい
先日、最終話のepisode8(EP8)が公開され、4年間続いた本シリーズも無事*1完結となったので、ぼちぼち感想を書いてみたいと思います。タイトルに「ネタばれ無し」って入れましたけど、意味合いとしては「犯人とかトリックとかの具体的な内容には触れない」くらいの気持ちです。抽象的な展開や作品テーマには遠慮無く触れていくので、気になる人はご注意ください。あ、あと1/29(土)に無制限うみねこネタばれチャット開催の予定なのでプレイ済みの方はそちらもよろしくです。 シリーズ概観 さて。『うみねこのなく頃に』は、私がこれまで最も熱心に読み解こうとし、また最も念入りに批判してきた作品です。EP8については見事な「着地失敗」だったなあと評価しているので、そのぶん批判方向への下方修正はあります。とはいえ、私のいちばんの興味、"推理ゲームのルールを換骨奪胎し、アナログゲームやテーブルトークゲーム風のオリジナ
私は「エヴァ」にも「lain」にもノれませんでした。疎外と孤独を扱っていればアニメやゲームとして認められてしまうところが、この業界の19世紀的な幼稚さです。あの手のモノが、ぼくは大ッッ嫌いです。(『伊藤計劃記録』伊藤計劃、二〇一〇年) 1 このところ、批評の世界ではゼロ年代の表現史を総括する言説が増えている。そのきっかけとなったのは周知の通り宇野常寛の『ゼロ年代の想像力』(二〇〇八年)だが、それに対してはこれまで賛否両論あった。とりわけ問題になっているのは、そこで宇野が問題にしたセカイ系なる概念だ。本稿は、この概念が流行し、また衰退していく時代の文学表現について、ジャンル論・ジャンル史の観点からまとめるものである。 まずは、宇野を批判的にとらえながら、セカイ系を総括した前島賢の『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』(二〇一〇年)を手引きにして議論をはじめることにしたい。 通常考えら
笠井潔・小森健太朗を中心として、20代の若手評論家が集まって結成された批評集団・限界小説研究会のブログです。 『最終兵器彼女外伝集 世界の果てには君と二人で』 /「セカイ」の果てから「せかい」へ 前田 久 本作は2000~2001年にかけて小学館の雑誌「ビッグコミックスピリッツ」に連載された『最終兵器彼女』(ビッグスピリッツコミックス、全7巻)の外伝集である。とはいえ、「外伝」と銘打っていることからもわかるように、世界観は共通しているものの、本作だけで独立した作品として読み解くことが可能な作りになっている。 ■ しかし、『最終兵器彼女』(以下、『サイカノ』)という作品の位置付けについて、念のため解説しておこう。ある日突然開始された戦争の中で、最終兵器に改造された少女・ちせと、その恋人・シュウジの純愛と、壮大なスケールの結末を、大状況に翻弄される人々の姿を交えながら描いた『サイカノ』は、新海
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