●基準4(編集者から見た文章のクオリティ) さあ、ここで初めて娯楽小説の内容に踏み込んだ上で、文章との関連性について考えていきましょう。 娯楽小説は大きく分けて、 1)現実逃避 2)教養補助 3)リアリティ 4)実学・啓蒙補助(うんちく系) 5)反教養 という互いに矛盾する商業的な要素で構成されています。 (1)の現実逃避は解説不要でしょう。要は「読んでいる間は現実を忘れさせてくれる」事を目的として書かれる文章で、娯楽の基礎です。 日本における娯楽小説のフォーマットを定着させたのは、明治44年(1911年)に出版された立川文庫でした。立川文庫は講釈師の玉田玉鱗(後の二代玉秀斎)の講釈を、義息の山田阿鉄が速記したという体裁で、実は阿鉄(及びに彼の創作仲間)が大幅に脚色した「書き講談」の貸本を文庫サイズに新調したものでした。阿鉄は前職が小学校の教員で、文章作成能力と史実に対する一定水準の知識が