『スノーデン 独白 消せない記録』(エドワード・スノーデン 著/山形浩生 訳) 自分に詩心がある方だとは思えないけれど、いくつか好きな詩がある。例えば、エドガー・アラン・ポーの「大鴉」。特に、あの、あまりに有名な一節が好きだ。 ……大鴉は言った。Nevermore(またとない). ふとしたきっかけで頭の中でその一節が響く。何か大きな出来事があった時とは限らない。どうということのないはずの日常的な出来事、少なくともそうとらえ得る諸々の中に、「もう後戻りできないのだな」とふと感じる時、その言葉が響く。 歴史は繰り返す、とはよく言われることだ。ほとんど変り映えのない出来事が繰り返すことも多いのは確かだが、決定的に不可逆なそれもある。例えば本書に出てくる「原子の瞬間」。自分たちを何回でも絶滅させられるだけの火力を得、核を分裂(あるいは融合)させて物質から無限のエネルギーを取りだす「核の時代」へのド