――眠れない。 眠れない夜は、尾形亀之助を読むに限る。 眼が見えない ま夜中よ このま暗な部屋に眼をさましてゐて 蒲団の中で動かしてゐる足が私の何なのかがわからない 布団の中で感じる足の異物感は、あれはいったいなんなのだろうか? 足に疲労が溜まっているからなのか。 夜の向ふに広い海のある夢を見た 私は毎日一人で部屋の中にゐた そして 一日づつ日を暮らした 秋は漸くふかく 私は電燈をつけたまゝでなければ眠れない日が多くなつた 電灯を消し部屋を暗くすると、かえって目が冴えて眠られなくなる。心当たりのある人も多いはず。 「夜の向ふに広い海のある夢」という開放感に溢れる夢の光景は、夜の息苦しさと閉塞感に捉えられている者が求めて得られない光景であるだろう。 夜がさみしい 眠れないので夜が更ける 私は電燈をつけたまゝ仰向けになつて寝床に入つてゐる 電車の音が遠くから聞えてくると急に夜が糸のやうに細長く